食べたらどんな味がするんだろうか(謎です)

大地を、地響きが揺らす。

日が落ちた大森林。木々の間から顔を出したのは、鱗に覆われたとてつもない巨体。そいつの頭部は、人間の身長を大きく上回る高さにある。

後ろへと目をやると首。肩と続き、比較的細い前脚が伸びている。胴体へと続き、腰から生えた後ろ脚は巨体を支えるのにふさわしい太さ。更に長大な尻尾と続く。二本足で歩いているのだった。されど、ヒトのそれとは異なり、上半身と下半身の尾が天秤のように、前後でバランスを取り合った形である。

恐竜。大森林の生態系の頂点に君臨する魔獣の一体。

驚くべき大きさのそいつは、王者の風格で夜の森を進む。狩りに出かけるのであろうか。

月の出ている夜であった。

木々の合間を抜けるそいつは、ふと立ち止まると唸り声をあげる。


―――GUURURURURURUR……


明かな警戒だった。

周囲を絶え間なく見回す恐竜。この怪物の耳に入って来たのは、不可思議な声。

その意味を理解できていれば、すぐさま逃げ出したに違いない。されど、恐竜にそこまでの知能はなかった。

力ある言葉が締めくくられ、魔法が完成する。

突如として、寒波が襲った。それどころか渦巻く風によって巻き起こったのは強烈な氷雪。

吹雪ブリザードと呼ばれる秘術が生み出した無数の氷は、木々をなぎ倒し、哀れな犠牲者をズタズタに引き裂いた。

どう。と倒れる恐竜の巨体。

それを見届け、木々の合間より現れたのは毛むくじゃらの姿を持つ、何体もの人型の怪物たち。

こちらも巨大であった。人間の三倍近くはあるだろう。ずっしりした体形の彼らは、巨人族の血を引く者に相違あるまい。

彼らは、仕留めた恐竜に群がると、その皮を剥ぎ、肉を切り取り始める。

晩餐の始まりであった。


  ◇


大森林の北にそびえる山々。

そこに住まう者達も多数存在する。獣。植物。悪霊や闇の種族さえも。

そして、巨人族。霜巨人フロスト・ジャイアントたちも暮らしているのだった。

時に5メートルの巨体にまで育つ彼らは冷気を操る魔力を宿し、邪悪な知性を備える厄介な怪物どもであった。

家族単位で暮らす彼らは、原則的に山の南側へと下りてくることはない。温暖な気候が苦手なのだった。されど、時折例外がある。

理由は様々である。疫病。他の種族との闘争に敗れて逃げ延びてくる場合もある。

そして、飢餓。

毛むくじゃらで巨大な人間の姿を持つ彼らは、がっしりしている。さもなくば肉体を支えきれない。その肉体を維持するためにも、彼らは大量に食べる。その意味では、生物の豊富な大森林は魅力的な場所であった。彼らには暑すぎるということを差し引いたとしても。

大森林に降りてきた霜巨人フロスト・ジャイアントの一群も、そうだった。餓えた彼らは見境なく喰う。人間も。

幸運なことに、彼らはまだ、近くに住まう人間たちの集落の位置を察知してはいなかった。しかし、幾度かの攻撃を受けた経験によって、捜索の手を伸ばしつつあったのだ。

今日は彼らの腹は満たされている。だが明日は?明後日は?

霜巨人フロスト・ジャイアントたちが村を襲うのは時間の問題と言えただろう。これは人と巨人たちとの、喰うか喰われるかの戦いであった。

日が昇る。

涼しい夜が終わり、暑い昼間がやってくる。毛むくじゃらの巨人たちはねぐらに帰り、眠りに就いた。

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