どんな魔物かはまだ決まっていません(台無し)

「……まさか死にぞこないアンデッドを頼ることになるとはのう」

伝令に走らされた狩人から事情を聞いた村長は苦笑した。

彼の家は木造三階建てである。敷地面積は高さの割に小さい。土地があまりないのだ。大森林の北、山脈の山裾にあるこの村は、森林が果て、草原が広がるちょうど境界線にあるのだった。ここからさらに山を登ると、温暖な気候が一変。突如寒くなる。

家の一階。そこは生活用品だけではなく、そこかしこに巨大な骨で作られた武具が並んでいる。村長が若いころに狩った魔獣たちのなれの果てである。中には人間が持ちあげられるか疑わしいような代物もある。

村長の筋骨隆々とした肉体。老いてなお衰えぬそこに刻まれた入れ墨は、武勲を誇示するものであると同時に、狩った獲物の霊を慰め、その力を取り込む儀礼的な紋様でもあった。

「ま、好きなもんを持って行かせればええ。道具は使ってこそなんぼじゃからの」

置かれている武具は実用品もあるが、多くは祭器である。山々に宿る精霊や、狩りの獲物の霊に感謝を捧げるためのものだった。儀式によって霊力が込められているのだ。村には光の神々の祠もあるが、同時に祖霊や精霊も信仰していた。

「やれやれ。日が暮れたら連れてこい」

「はい」

村長の命に従い、狩人は出て行った。


  ◇


―――歩きづらい。

姫騎士の本心だった。

夜の村を歩く彼女は、大きなフードを広げて両手で支えている。生首は包んで背負っていた。遠目には人間に見えるだろう。

面倒だったがやむを得ない。騒ぎになられても困る。

そんな事を思いながらも、彼女は久しぶりの人里を見回した。

畑で栽培されているのは葉物である。モロコシの畑もあった。流れている川は意外と大きい。

そして、家々。藁で出来た半球型のものもあれば、木造のものもある。デザインに統一性があまりない。

疑問に、同行していた薬師が答えた。

「ああ。ここは大森林の奥も奥、だからね。おまけに裏手の山々を越えてくるもんもおる。お前さんたちみたいにの。ま、いろんなとこから逃れてきた奴がたどり着く果てなのさ。そういうのが定住しとる。

村の掟を守れる限りは受け入れとるよ」

「……ぉ…」

その言葉に姫騎士は思案。よそ者でも受け入れるということは、少年を受け容れてもらえるよう頼むこともできるのでは。

その考えがまとまらぬうちに、目的地へとついた。

「さて。お前さんにはしっかり働いてもらうからのう」

「…ぁ……」


  ◇


姫騎士が選んだ武器は槍だった。それも長さが4メートルもある長槍である。骨と牙の組み合わせで作られたそれは、猟師たちが魔獣の突進チャージを迎え撃つ際に用いるのだという。地面に石突を噛ませ、相手の突進の威力をそのまま破壊力に変える。わずかでもしくじれば命はない。十メートルの巨獣は敏捷な上に強靭である。槍投げ器アトラトルを用いた投槍ですら致命傷を負わせられぬのだ。彼らを仕留めるのは並大抵のことではない。

話を聞いた姫騎士は、この村の猟師が一般的なそれではなく、むしろ怪物相手の戦士団に近いのだと認識した。道理であの狩人も重武装だったわけである。

そんな彼らが返り討ちにされるとはどのような敵なのか。

姫騎士は、気を引き締めた。

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