最近ちょっと無理してるかもしれない(無職だった時と同じペースを維持しようとするから)

闇妖精ダークエルフの首長は、戦場を蹂躙する黒き竜を見上げていた。

竜騎士ドラゴンライダーとの交戦は想定内である。研究も進んでいた。

あの黒き竜。古竜エンシェントドラゴンに匹敵する巨体は、本来の姿ではない。変身の魔法、すなわち竜語魔法によって、より強大な姿へと変じているのだ。奴の正体は成竜レッサードラゴンに過ぎぬ。消耗も激しい。

100メートルもの古竜エンシェントドラゴン相手では打つ手はないが、時間制限があるとなれば話は別だった。運動能力も大幅に低下し、弩砲バリスタで鱗を貫けるようになる。対空射撃で奴の機動を制限できるようになるのだ。

だから、そこまで持ちこたえることができれば闇の軍勢の勝利だった。

奴を滅ぼし、その騎士を討ち果たさなければならぬ。闇の者たちは知っていた。黒竜騎士が、神の敵。それも、暗黒神に名指しされるほどの強大な敵であるということを。そもそも、今回の遠征は神託によって始まったのだ。

「黒き竜の主を滅ぼせ」と。

神の敵は己の敵。末端の小鬼ゴブリンや野獣のごとき本能で動く巨鬼オーガァですら暗黒神を畏れ、敬う。闇妖精ダークエルフらが奴らを統率できるのも、闇の種族の祭司としての役割を担っているからだった。

宗教的情熱が、闇の種族らを突き動かしているのだ。

もちろん、それで終わりではない。

この戦いに勝てば、北岸諸国へ侵攻する。すべてを焼き払い、略奪し、殺し尽くし、悪しき欲望を充足させるのだ。神は全ての悪徳を肯定する。

だから、ここで立ち止まるわけには行かぬ。

彼は、海上へと目をやった。今は対処できるものから片づけて行かねばなるまい。接近しつつある敵船。あの裏切り者が乗る小舟をまずは潰すのだ。

首長は、攻撃を命じた。


  ◇


度重なる攻撃を凌いできたロングシップ。それも、そこかしこに矢が突き刺さり、船体構造にもダメージが蓄積していた。修理が必要である。手荒な扱いを考えればよく耐えているというべきだろう。

「……ぅ……」

「ええ。ちょうどいい。あの船を奪いましょう」

帆柱に身を隠し、女海賊が掲げる盾に守られているフードの魔法使いは微笑んだ。

船はひどい有様だった。すぐに沈没するような致命傷はないが、船底からは水がしみ出し始めているし、漕ぎ手の骸骨兵どもにも損害が出ている。

機動力を喪失するのも時間の問題であろう。

だから、ふたりは近くの敵船に目を付けた。味方の船が来るまでのとしてはちょうどよい。三段櫂船を奪うつもりである。

「なら、私は上から行くわ」

ロングシップに並走していた女怪スキュラは告げると、聖句を唱えた。

月神の加護は、彼女の姿を隼へと変える。

上空より攻撃するつもりなのだ。

飛び去る女怪スキュラを見送り、女占い師は船を操った。敵船へめがけ、まっすぐに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る