余計なパラメータを増やして戦場がどんどん混沌としていく(アドリブやから……)

―――こちらを、見ていた。

空を見上げる女占い師。彼女の視線の先を通り過ぎ去っていくのは黒き竜だった。

ほとんど影しか見えぬ。驚くべきスピードである。

しかし、その刹那。確かに、相手は女占い師の事を見ていた。そう。竜に跨る騎士は、女占い師を認識していたのだ。

―――やっと、会えた。

戦場の真っただ中にありながらも、女占い師の胸中に会ったのは達成感。

長いようで短い旅の果て、ようやく彼に出会えたのだ。遠い昔、己を救ってくれたあの人に。

一瞬で通り過ぎていく竜騎士ドラゴンライダーとその乗騎を見送り、女占い師は己の役目に集中した。


  ◇


天空を飛翔する騎士と乗騎は、まさしくであった。呼吸するように自然に、互いの意志を通じ合うことができたのだ。

だから人間以上の知能を誇る竜。彼女は、主の意志に応えた。

翼が畳まれる。落下が始まり、位置エネルギーが、運動エネルギーへと変換される。

竜が海面すれすれで翼を開いた時、その速度は恐るべきものとなっていた。

で体を支える彼女は、たちまちのうちに距離が詰まった敵船。すなわち闇の軍勢の三段櫂船へと、軽く息を吹きかける。

たったそれだけで、敵船は炎に包まれた。

竜の吐息ドラゴンブレス。強力な魔法の炎であった。

焼け落ちていく船。

時折反撃の矢弾が届くが、何ほどのものもなかった。

次の獲物を物色しながら、竜騎士ドラゴンライダー主従は通り過ぎていく。


  ◇


島と半島。南北を挟まれた海域では、進むか、下がるかの選択肢しか存在しない。

だから、闇の軍勢は前進を選択した。竜騎士ドラゴンライダーによってを奪われた以上、乱戦に持ち込むことで敵の攻撃の手を控えさせることが必要と考えられたからである。

対艦戦闘における竜の優位性は明らかであった。

彼らは空を自在に翔け、鉄をも溶かす火炎を吐き、なまかな矢玉や魔法など通じぬ頑強な鱗を備えている。木造の船を容易に破壊できる一方、反撃で倒される危険はほとんどないのだ。騎士が跨っている場合でも同様である。下方からの攻撃では、竜に跨っている騎士に攻撃を命中させることは難しい。

唯一の弱点は、逆鱗。竜の喉元にある急所だけは、武器による攻撃が容易に貫通する。されど、自在に動き回る敵の急所を狙うのは限りなく困難であった。

だから、闇の軍勢はまともに竜騎士ドラゴンライダーと戦うつもりはなかった。

攻撃を耐えぬき、致命の一撃を加える機会を待つ。

それが彼らの戦略だった。


  ◇


同刻。

陸上でも、戦端は開かれていた。

首のない女に率いられた白骨の騎兵たちによる攻撃が、闇の軍勢。その側面へと加えられたことで戦いが始まったのである。

森の奥から出現した骸骨兵たちは、悪鬼のように戦った。突入した彼らは小鬼ゴブリンどもの隊列を踏み潰し、大小鬼ホブゴブリンらを刺し殺した。変身巨人トロゥルどもにぬらりと光を反射する毒刃で切り付けて死に至らしめ、巨鬼オーガァへ火をかけて焼き殺した。

まさしく疾風のごとく襲撃を仕掛け、そして森の奥へと消えて行った骸骨兵の兵団は、その後も反復攻撃を繰り返した。

突撃が行われるたびに闇の軍勢は甚大な被害を受けたが、彼らとてやられるままだったわけではない。

二回目以降の攻撃では、反撃で何体もの骸骨兵が破壊され、白骨の馬が砕け散った。三回目、四回目と繰り返されるにつれてその手際は手慣れていき、半数ほどを撃破したところで攻撃はパタリとやんだ。

隊列を整えた軍勢は行軍を再開したが、その前方。切り立った崖の間の狭い道に陣取り、盾と槍を構えて立ちはだかる何十もの骸骨兵どもを目にした時、その戦意は著しく減退していた。

骸骨兵たちを率いる首のない女の目論見通り、士気が低下していたのだ。

結果。闇の軍勢は、待った。朝日を。

敵が魔法的怪物の軍勢である以上、陽光を浴びれば動きが鈍るはずである。

それは合理的思考の末に出た結論ではあったが、陽光に頼るという点で、低下していた闇の者どもの士気をさらに減退させる。

にらみ合いが、続いた。

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