次はどうするかなあ(いいから続きを書け)

激しい戦いが繰り広げられる、夜の海。

その真っただ中でも、二つの船が激突しようとしていた。

ひとつは北の民ヴィーキングの船。細長く優美な船体に、帆柱をひとつだけ持つロングシップ。

対するのは闇の種族の軍船。三段に分けられた内部に漕ぎ手を満載し、甲板上に戦闘員を乗せた三段櫂船。

二つの進路は斜めに交叉していた。速度を維持すれば、三段櫂船の横っ腹に敵船が激突するであろう。

衝角を備えぬとはいえ体当たりされればロクなことになるまい。故に、三段櫂船は進路を変えた。漕ぎ手を動員し、敵であるロングシップへと進路を向けたのである。衝角を真正面から喰らえば、敵船は粉々に粉砕されるであろう。

激突する刹那。

対するロングシップは、回避しなかった。代わりに彼女らは。船を操る女占い師は、

彼女が魂に築いた祭壇を通じて顕現した加護。強壮なる神の霊力は、船を中心とする海水を凍結させる、という形で具現化した。

ロングシップを中心として急速に広がる氷の塊。それは、衝角でも貫けぬ分厚い装甲と化し、どころか衝角にのである。

三段櫂船の舳先が、重みで沈み込んだ。

ロングシップの乗員らは、そこから敵船へと飛び移った。


  ◇


三段櫂船の甲板上にいた30近い戦闘員は、その大半が闇妖精ダークエルフであった。魔法に長けた彼らは死者を殺せる。女海賊を打倒し得るのである。

彼らは、首なし騎士デュラハンを筆頭とする死者の手勢を連れて乗り込んできた、フードの魔法使いへと殺到した。

その先頭に立ったのは彼らの首長。印を切り、術を唱えた彼は、秘術を発動させながら踏み込んだ。

魔法使いを庇うべく、迎え撃つ女海賊。盾を背負った首のない彼女が振り下ろした剛剣は、正確に命中する軌道を描いた。

刃が届く。―――その刹那。

首長の身に生じた強烈なが、剛剣を受け止める。理力の鎧フォースアーマーと呼ばれる魔法である。ありとあらゆる物理的な存在を阻止する強烈な防護の秘術であった。

たたらを踏む女海賊。その胴体を、鞘走った首長の剣が薙いだ。

鎖帷子がなければ、この時点で体が真っ二つとなっていただろう。それほどの斬撃。

さらに追い打ちをかけるべく、首長は。聖句と共に放たれたのは、衝撃波フォースの加護。

首なし騎士デュラハンは甲板を転がっていく。それを無視した首長は、敵の首魁。すなわちかつて彼を暗殺しかけた魔法使いへと踏み込んだ。

もはや敵は正体を隠そうとはしていなかった。色を持たぬ半妖精ハーフエルフの姿を持つ女占い師は、脇に生首を抱え、右手に長剣を保持している。

両者の剣は激突。首長が両手で剣の柄を握っているのに対し、女は片手。されど、人間の血を引く女の方が体格で勝っていた。

互角の鍔迫り合い。

両者の脇で、骸骨兵どもと闇妖精ダークエルフたちがぶつかり合った。

首長は思案。あれほどの加護を用いた後である。この女にはもはや魔法を使う余裕はあるまい。骸骨兵どもは手勢が抑え込んでいる。首なし騎士デュラハンはまだ立ち直っていない。更に、相手の剣は通じぬ。こちらには理力の鎧フォースアーマーがある。

敵に、自分を害する手段はない。

―――裏切り者の間者め。その首晒してくれる!

この時点で彼は、勝利を確信していた。

ただ一つ見誤っていた点があるとすればひとつ。

敵がもう一人いたという事。

いつの間にやら忍び寄っていた敵。全身を鱗で覆われていた女怪スキュラは、首長の頭上から襲い掛かった。

彼女の怪力ですら、理力の鎧フォースアーマーを完全に貫くことはできない。代わりに、それた彼女の一撃は、甲板を砕いた。

足を取られる首長。

生じた隙で、女占い師は体制を立て直した。


  ◇


―――強い。

甲板に転がった女海賊は、闇妖精ダークエルフの首長をそう評した。

闇妖精ダークエルフは魔法と武芸、双方に長けたものだが、この敵はずば抜けている。女怪スキュラと女占い師。二人の敵に挟まれているというのに互角の戦いを演じているとは。骸骨兵たちは他の敵勢と渡り合っているが、30からの闇妖精ダークエルフ相手では時間の問題であろう。

しかし、これは好機でもあった。敵は大将首。討ち取る事ができれば、自軍の優位に持ち込むこともできるであろう。

起き上がりざま襲い掛かって来た敵を切り殺すと、女海賊は背中へ手をやった。魔除けの目玉が描かれた盾を、手に取ったのである。深く考えたわけではなかった。ただ、敵の防御の魔法にも通じるかもしれぬと思ったのだ。

されど、盾を向けられた首長が纏う理力の鎧フォースアーマーが減衰する様子はない。あくまでも盾である、という事だろう。離れた敵を守る魔法を破る力はないのだ。

だから、女海賊は踏み込んだ。

盾の用途のひとつ。構えた盾で、敵を殴りつけたのである。

強烈な盾の一撃シールドバッシュは、理力の鎧フォースアーマーの魔力を打ち破った。

背中より打ち据えられ、船縁に叩きつけられる首長。

盾より離れた理力の鎧フォースアーマーが再び力を取り戻すが、もはやそれが意味をなさぬことは明白であった。

女海賊は敵へと歩みより、そして盾を振り上げた。


  ◇


闇の軍勢の旗艦。その帆柱に掲げられていた旗が落とされたのは、それよりしばらく経っての事だった。


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