ところでエピソードが増えすぎて更新するとき一番下までスクロールするのが大変な件(でも大急ぎで書かないと続き気になるやろ)
夜の港。
幾多の船が停泊している夜の水面が、揺らめいた。
ひとつ。ふたつ。
たちまちのうちに増殖し、強まり、やがて内側から膨れ上がると立ち上がる。
それは、人間だった。ボロボロになった着衣。濁った瞳。腐敗し、膨れ上がった肉体。
死者の集団が、海の中より現れたのである。それも何十という数が。
水底に沈められていた、不浄の怪物たちであった。
彼らは自らを殺した闇の魔法使いの命令に従い上陸したのだ。敵を迎え撃つために。
◇
街路を押し進んでいた女海賊は、前方より押し寄せてきた敵勢に気がついた。人間。その死者たちに。
今まで始末してきた雑兵どもとは違う。奴らの爪や歯は女海賊を傷つけられる筈だった。
そしてその背後に控える指揮官。ローブを纏ったそいつは
もちろん、敵の狙いに乗ってやる義理はない。
だから女海賊は、走った。その超人的な身体能力にものを言わせ、加速した彼女の向かう先は斜め前方の家屋。
その壁を駆け上がった女海賊は、迫る死者たちの先方。その頭を足場としてさらに駆け抜ける。
首が宙を舞った。
◇
───何者だ?
軍勢を指揮する首長の脳裏に浮かんだのはその一点。
彼は使い魔を通し、敵の。すなわち裏切り者の女占い師の逃走を観察していた。
この期に及んでも敵は
まさか人の類に組したわけもあるまい。となれば、他の部族による破壊工作か。
闇の種族と言えども一枚岩ではない。同じ神を奉じる部族同士ですらそうなのだ。崇める神が異なれば互いに殺し合うなど日常茶飯事だった。
とはいえ、まさかこのタイミングで。
それに、気になることはもう一つある。
───奴ら、どこへ逃げるつもりだ?
裏切り者が向かっているのは港。船を奪って逃げるつもりだろうか?とはいえ大型の高速船は動かすのに大人数が必要だった。いかに不死の怪物を連れているとはいえ、労働力がひとりでは船を動かすことなど出来まい。
そこで、気付く。敵の狙いに。
「奴め、船に火をかけるつもりか!?」
使い魔の視界の中。
裏切り者の
◇
港湾の倉庫街。その路地の合間を抜けて進む女占い師は、仲間の肩越しでようやく視界へ入れた港湾に安堵した。後は火を放ち、混乱に乗じて脱出すればよい。
懐から例の松明を取り出す。呪文を唱え、点火する。
後は炎を呼び水に、手懐けていた死者の霊魂。すなわち焼き殺された人々の魂を呼び出そうと身構えたそのとき。
前方を進む女海賊が立ち止まった。小脇に抱えた生首が、警告を発する。
「……ぁ…!!」
水が泡立った。
幾つもの波紋が広がり、膨れ上がり、内側から爆発する。
そこから伸び上がったのは、巨大だった。体がまだ水中に没しているというのに、その頭の高さは周囲の倉庫以上。遙かな高みよりこちらを見下ろしてくるそいつは、毒の牙と二つの瞳。緑の鱗に覆われし蛇だった。
一匹だけではない。何匹ものそいつらがこちらを睨みつけてくるのである。
───これほどの魔獣を手懐けているとは!
女占い師の驚愕。情報収集の過程で、彼女も知ってはいた。闇の軍勢は、魔獣の集中運用によって都市を陥落せしめたのであると。
とはいえ、この敵は想定以上だった。
おとなしく逃がしてはくれまい。予定では
「奴を始末します!」
「…ぅ……!」
女海賊が踏み込むと同時。魔獣どもは襲いかかってきた。
降りかかる強烈な一撃。それは、女海賊の直前。剛剣へと真正面からぶつかっていった。
切り裂かれる顔面。
されど、受け止めた女海賊も無事ではすまなかった。魔獣の攻撃は、彼女をはね飛ばすことに成功していたからである。
倉庫の壁面による有り難くない包容を受けた、首のない女体。壁にもし魔力が宿っていればが骨折していたかもしれぬ。
死者は死なぬ。ゆえに傷つく事はない。
彼女らの生命を支える不死の魔法を砕かぬ限りは。
故に、魔獣の肉体が魔法を帯びていることは明白であった。
事実。仰け反った蛇の怪物に付いた傷は、凄まじい勢いで癒えて行くではないか。
蛇が宿す治癒の魔力に違いない。
傷付いた女海賊へ、第二第三の蛇が迫る。
二撃目はそれでも受け流した。しかし三度目を防ぐすべはない。
そのとき。
真横から魔獣へと襲いかかったのは、多数の頭を持つ異形の女体。
犬の頭部を持ち、長大な尾鰭とも蛇身とも分からぬ下半身を持ち、鱗に覆われた彼女は。
しかしそれも一瞬。
敵の首を食いちぎる、犬の頭。
落下した蛇の頭部が、大地と激突。地響きをたてて転がった。
まずは一匹。
他の敵へと向き直ったふたり。
その背へ警告が投げかけられる。
「まだ生きています!」
女占い師の叫び。
それに従い、今倒した蛇へ視線を落とした
「ああああぁ!?」
響き渡る苦鳴。毒の牙が彼女を冒しているのだ。
首を落としても生き返るとは!
女海賊がそいつの首を叩き斬る合間に、残る魔獣どもは上陸してきた。
いや。
獣どもではなかった。
なぜならばそいつは、一つにつながっていた。九つの首を持つ、異形の巨蛇だったから。
女占い師は、そいつの名を知っていた。
「
怪物の牙から、毒液が滴り落ちた。
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