※主人公の片割れです(どう見ても邪悪な魔法使い)
夜。
それは闇の種族にとって目覚めの時間である。彼らのほとんどは夜目が利いた。
天性の魔法である。
故に、彼らは闇を恐れない。夜間には活動が活発となる。
ここ。闇の軍勢に制圧された都市でもそうだった。
そこかしこで、起き出してきた怪物どもが動き始めている。
その合間を縫って、人の類たちも動き始めていた。
◇
奇怪な松明だった。
それは人間の手首である。ぴんと伸ばされた人差し指の先端から上がっている小さな火。
不気味な松明を持って歩いているのは、ローブにフードの
女占い師であった。
彼女は裏路地を進む。何体もの霊を従えながら。
彼女の異様な姿には、街に巣食っている闇の者どももさすがに見とがめる。
そのはずであった。
されど、彼らは呆けたような顔をし、女占い師が通り過ぎていくのを黙ってみているのみ。
そこへ、霊どもが襲い掛かった。殺された人々の怨念が。
魔法で縛られたそいつらの名を病魔。
彼らの襲撃は一瞬であった。物理的には何の変りもない。そのまま、女占い師は行き過ぎ、そして闇の奥へと消えていく。
されど、襲われた闇の者ども。
疫病に感染したのだった。
夜は、闇の種族の時間である。だが、それだけではない。
魔法の時間だった。
◇
闇の軍勢も出航のための準備には手間取っていた。軍勢の行動とは時間がかかるものである。だから、
夜間は人間の船大工は役に立たぬ。
闇の軍勢の規模は事ここに至って膨れ上がりつつあった。此度の戦争を聞きつけてやってくる者どもを吸収しているからである。首長もいちいちその全部は耳に入れていない。
増えた人手も、問題なく運ぶ宛はあった。闇の軍勢。
とはいえ気になる事がいくつか。
斥候に送り出した軍船が戻ってこない。一隻だけではない。何隻ものそれを、彼ら闇の軍勢は送り出していたが、一週間ほど前を境にパタリと帰還が途絶えたのである。
―――気付かれたか。
そうでなくても、こちらからの船が来なくなれば不審に思うであろう。風に恵まれれば船で2、3日あれば渡れる距離である。
他にも気になることがあった。
疫病である。
都市の衛生環境は悪化の一途をたどっている。だから驚くには値しなかったが、しかしすさまじい勢いで拡大していた。
こればかりは解決法がない。病に冒されたものを隔離し、死体を焼く程度である。
頭の痛い問題ばかりだったが、首長は、この後控えている使者との会談を行うべく席を立った。
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