繰り返しますが善の魔法使いです(ローフル・グッドやからなこのひと)

朝方。

暗黒神の時間が終わり、太陽神の力が強まる時間帯。闇の者どもにとっては床に就く刻でもある。

日干し煉瓦で作られた家屋の一角。窓を閉じ、光を締め出した空間だった。

片隅に置かれた寝台も、役目を果たしている。

身を横たえるのは麗しき女体。一糸まとわぬ彼女の肌は、黒い。

漏れ出る息遣いは小さかった。されど、荒い。幾つもの汗が水滴となり、肌の上を滑り落ちていく。

この肢体に興奮せぬ男などおらぬだろう。どこまでも蠱惑的な肉体であった。

それを野獣のように貪っているのは、やはり黒い肌の持ち主。

執拗に女体を征服せんとを強める彼は、闇妖精ダークエルフの戦士であった。

彼としとねを重ねているのは女占い師。

両者の交わりは強まっていく。

やがて。

それが最高潮クライマックスにたどり着かんとしたとき。

背筋の凍るような音が響いた。

男の脇腹。そこへ、黒い繊手が突き刺さっていたからである。器用にろっ骨を避けたそれは、奥へと進み、そして目当てのものを探り当てると一転。今までと逆の方向へ進んだ。

すなわち、抜き放たれる繊手。

その手が握っていたのは、まだ脈打っている心の臓。

驚愕の表情を浮かべている戦士をよそに、女占い師はを進めて行った。

実に闇妖精ダークエルフらしく、冷酷に。

寝台の下に隠されていた呪符が抜き出され、脇腹の傷口へと挿入される。それはたちまちのうちに心臓があった位置までたどり着くと、を開始した。

「私から降りなさい」

『―――はい』

心臓を奪われた闇妖精ダークエルフの戦士は、忠実に従った。女占い師の命令に対して。彼が奪われたのは生命の中枢だけではない。その自由意思までもを掴みだされ、盗まれたのだった。

戦士は死んではいなかった。ただ、心臓と意志を奪われただけ。

「服を着て、普段通りに振舞いなさい」

『―――分かった』

「身支度を整えたら、怪しまれぬように長に会いなさい。そして、殺せ」

『―――承知』

やがて。戦士は身支度を終え、家を辞した。

その背をずっと見送っていた女占い師であったが。

やがて、掌の中で脈打つ心臓へと視線を落とすと、手で印を切り、神へと祈った。

罪深い己の行いに恐れおののいて。

そして。

それを平然と行ってしまう、己の冷酷さに恐怖して。

闇の中。半妖精ハーフエルフの魔法使いは、密やかに涙した。

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