昼間の方が隠密行動に有利という逆説的問題(夜行性)

陽光が照らし出す南岸の都市。

この地を目下支配している闇の種族の活動は鈍い。陽光は平気とはいえ、彼らは夜行性である。好んではおらぬ。

それでも、働いている者たちはいた。多くは人間の船大工たちである。捕虜とされた彼らは船の改造を強要されているのだ。逆らう者は皆死んだ。残るのは家族あるいは自らの命を惜しんだ者たちである。

それとて、寿命が少々伸びただけにすぎぬが。

そして都市の外周には、多数の天幕が立ち並んでおり、あるいは邪悪な怪物どもが雑魚寝していた。

さて。

そんな人外の都市の周辺。まだ昼間とは言え、活動している者はいる。理由は様々だったが、やはり最も多いのは歩哨であろう。彼らは軍勢である。当然の配慮と言えた。

そんな歩哨の一人であるところの槍を持った小鬼ゴブリンは、地形の向こう。荒れ地のほうからやってくる、不思議な三人組を見つけ出した。

一人は熊の毛皮を纏った大男。手には戦斧であろうか。

そして残り二人は女。おそらく。

なぜおそらくなのかと言えば、判別がつきにくい特徴をどちらもが備えていたからである。

女の一人は、鎖帷子を身につけ、マントで体を覆い、腰には剛剣を佩いている。

顔立ちはわからぬ。兜で隠されていたから。だが、それよりも問題なのは、そいつの生首は小脇に抱えられていたということ。そう。不死の怪物なのだ。

最後の一人は、肩に隼を乗せた、フードにローブの魔法使い。かすかに覗いている肌は、

闇妖精ダークエルフだろう。腰に剣も帯びていることであるし。

そこまで見て取った小鬼ゴブリンは、彼らへの興味を失った。何らかの用事で出かけていた闇妖精ダークエルフが戻ってきた。あるいは他の部族の使者であろう。奴らお偉方と関わるとろくな事がない。

それにしても昼間だというのにご苦労なことだ。

彼は、一刻も早く日が暮れることを願った。


  ◇


「───うまくいったな」

熊の毛皮の男。狂戦士は安堵のため息をついた。いかに勇敢な彼でも緊張する。

なにしろ白昼堂々、闇の軍勢にしたのだから。

周囲にいる闇の者どもの視線はどこか胡乱げではあったが、今のところ放置されている。闇の魔法使いとでも認識されているに違いない。

隼の姿の女怪スキュラ。そして女海賊───彼女が身に付けているのは太守より軍船を捕獲した褒美として贈られた魔法の鎧である───も同意する。

彼女らは、自分たちの頭目リーダーへと目をやった。

紅の瞳に銀の髪、黒い肌を持つ尖り耳の女へと。

「しかし、見事なだな。闇妖精ダークエルフにしか見えん」

「…ぅ……」

「本当に闇妖精ダークエルフですから。半分は」

視線を向けられた女占い師は苦笑する。彼女が用いているのは、魂の姿を見せる魔法だった。彼女の魂魄は色を持たない。暗黒神に捧げられたためである。だが、彼女ほど高位の魔法使い。それも霊と魂を扱うのに秀でた死霊術師ネクロマンサーであれば、自らの魂を一時的にするくらいはできた。

これを利用し、一同は闇の軍勢へと潜入したのである。

彼女らは交易商人を通じて商業都市に雇われた。その任務は、敵地への潜入及び破壊工作である。

他の都市へもそれぞれ別の部隊が異なる方法で潜入を進めているはずだった。

ひとまずは、北の果てより放浪してきた闇妖精ダークエルフが従者を連れ、闇の軍勢へと馳せ参じた。というである。うまく騙せるか否かは女占い師の次第だったが、今の所は成功していると言えよう。

問題は、軍勢の首脳陣。闇妖精ダークエルフどもにも通用するかどうかだったが。

不安を胸に隠しながらも、一行は都市へと足を踏み入れた。

闇の軍勢の巣窟の中へ。



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