第七話 海魔の大渦

触手プレイです!(ロマン)

大陸西部には南北に何百キロも広さを誇る大きな島が存在している。伝承によれば、島はもともと大陸の一部だったのだという。しかし地殻変動によって一部が沈み、海峡ができたのだと。そのきっかけになったのが巨大な魔法による洪水だという言い伝えもあった。

さて。地形としてみれば、海峡部分は狭い。最も狭い部分は数十キロしかなく、島によって風から遮られていた。安定的な気候なのである。そのためか、古代からこの海峡を、人の類は行き交っていた。交通の要衝なのだ。

また、元が陸地だったせいか大変な浅海でもあった。それは複雑な地形と相まって、豊かな海の幸を育む源である。

しかし。

それは、豊富な水産資源に惹かれた怪物どもがこの海域に集まっている、と言うことでもあった。


  ◇


曇り空の下を航行しているのは一隻の帆船。三十メートルもの船体に縦帆を二枚備えた商船であった。大陸を往く船の例に漏れず甲板構造は持たない。

そして優れた積載能力。幅広な船体は大量の物資を運ぶことを可能とする。

その性能は一目でわかった。何故ならば、明らかなであるにも関わらず、浮力を失ってはいなかったからである。

そう。船体に絡みついた何本もの触手。100メートル近い長さを持つそいつらに引かれても、なお、商船は沈没を免れていた。時間の問題であろうが。

恐るべき光景だった。まさしく自然の猛威を具現化したかのような。

その一部始終を、遠景から眺めていた者がいた。漂流物に掴まり遭難していた水夫である。

彼が見つめる先。

船も触手の剛力には耐えかねたか、その構造がへしゃげていく。浮力を確保していた水密性が失われ、浸水の侵略に屈服し始めた。

後は早い。

船は限界を超えた。船首が持ち上がる。かと思えば、たちまちのうちに沈み始めた。引きずり込まれていくのだ。

触手によって。

巨大な船体が沈没したことで生じた大渦メイルシュトロームが、すべてを呑み込んでいく。

渦が消えたころ、水夫も意識を失った。


  ◇


「きゃっきゃ」

幼子のとなっているのは茶妖精ブラウニーである。この妖精は、ものの試しと与えられている役目を今のところこなしていた。すなわち子守を。玩具になっているとも言う。

曇り空の海。雨がくる前に上陸しようとしていたときのことだった。

幼子も飽きてきたか茶妖精ブラウニーを投げ捨て、船縁へと歩み寄る。

慌てて彼を抱き寄せた狂戦士は、水面になにやら流れてきたのを見つけた。

木切れ。

そして、それに抱きつき意識失っているひとりの水夫の姿を。

「…む?

おい、人間が流されているぞ」

狂戦士が上げた声。それに呼応し、にわかに船が慌ただしくなった。

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