イカ焼きはお好きですか?(タコ焼きもいいな)

「こいつ息をしてないぞ」

狂戦士が言うとおり、水夫は呼吸をしていなかった。水死体である。とはいえまだ真新しい。さほど漂流してから時間が経っていなかったのであろう。

と。そこで、女占い師が、他の者を押しのけ、船体中央に寝かされたの様子を検分する。

「―――ふむ」

すぐさま彼女はを始めた。水夫の口に自らの口を当て、生気を吹きいれたのである。続いて、心臓に手を当てると胸を規則正しく圧迫。

蘇生のであった。

その場は彼女に任され、一同は操船へと戻った。


  ◇


「……げほっ。」

水夫が息を吹き返した時、まず目に入ったのは、闇。

それがフードに覆い隠されたひとの頭部なのだ、と察した水夫は飛び起きた。

まわりを見回す。

そこは船の上。1本だけの帆柱には小さな子供が縛り付けられている。空模様があまりよろしくなく、波も荒れているせいだろう。たくさんの荷物を積載し、船員たちが慌ただしく働いている。

どうやら己は助かったらしい。と知った彼は、手当てをしてくれたらしいフードの人物へと礼を言おうとして。

その背後で懸命にロープを引っ張っり操船に忙殺されている、首のない女体を発見した。

目がかすんでいるせいだろう。そうに違いない。

何度も瞬き。更には頭を振った彼は、女の姿を再確認。

やはり首がない。

「……」

あらためて周囲を見回す。

船が揺れるたびにごろごろ転がっているのは40センチほどの茶色い小人だし、もう一人働いている船員は熊の毛皮を被った巨漢。

そして、眼前の人物。

フードで隠された奥に驚くほど白い肌を持ち、紅の瞳を備えた美女だった。それも、尖った両耳を備えている。

明らかに人間ではない。話に聞く森妖精エルフ族だろうか?

己がとんでもない所に来てしまったと悟った水夫は、とりあえずできることをやった。

絶叫したのである。

「きゃああああああああああ!?」

海原は、響き渡る声を見事に吸収してのけた。


  ◇


「言われてみれば、中々に個性的な面々ですな」

苦笑しているのは交易商人。荷物の固定を再確認した彼は、水夫への事情聴取を開始したのである。

「しかし災難でしたな」

「いえ……助かりました」

息を吹き返した水夫にはとりあえず異常は見受けられなかった。処置が早かったからであろう。改めて女占い師の魔力に感嘆した交易商人だったが、彼女曰くこの蘇生術は、やり方さえ知っていれば誰にでも扱えるらしい。

「それで何があったので?」

「……怪物に、船が襲われて」

水夫曰く。彼の船を襲ったのは巨大な怪物だったらしい。それも船をはるかに上回り、多数の吸盤を備え、何本もの触手を伸ばして船に絡みついてきたのだと。

「―――あなたはどれくらいの間、漂流されていたのですか?」

「船が沈んでから、たぶんまだそれほどの時間は……」

それはつまり、この近辺にもまだ件の怪物がいるかもしれぬ、ということだ。

事態を重く見た交易商人は、乗員乗客らに危急を伝えるべく振り返った。更に、声を上げようとして。

海面が、揺れる。

へと目を向けた一同は、見た。

船の側方。海面から伸びあがった、巨大な触手を。水面下に隠れたそいつの本体の影を。

その様子を呆然と見ていた者たち。

「―――海魔クラーケン……!」

女占い師の口から、そいつの名前がこぼれ出た。

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