生首は凶器です(ぇー)

炎上する幽霊船ゴーストシップの前で、女占い師は待ち構えていた。戻ってくる敵勢を。

女占い師が取っていたのは戦いの構え。右手の人差し指と中指、それをまっすぐ揃えて伸ばし、他の指を握りこんだのである。まるで剣を象るかのように。

女占い師は裂帛の気合を込めると、構えた指を突き出し、そして横に薙ぎ払う。

―――影が、伸びた。

炎に照らし出される以上に伸長した影は、戦死者たちの影を薙ぎ払った。

まるでそれに合わせるかのように、十数体もの戦死者どもがバタバタと倒れていく。

フードの魔法使いは、霊や魂を扱う術に長けた死霊術師としての本領を発揮したのである。

さらに。

残った怪物どもの背へ、追い打ちが加えられた。

真っ先に襲い掛かったのは女海賊。彼女は残った不浄の怪物どもを剣で切り、刺し、叩き潰し、たちまちのうちにすべてを討ち滅ぼしたのである。

ややあって。

炎上する船が、静かに沈んでいった。


  ◇


海浜近くの岩陰。

少年は、戦いの様子を隠れて見守っていた。彼の見ている前で戦いは始まり、村へと逃げ戻るチャンスを逸していたからである。

抱えられている女海賊の生首は胴体を操るのにらしく、ピクリとも反応しない。だが、その美貌は見るものをどこか安心させてくれた。この人ならばなんとかしてくれる。そう、少年に思わせたのだ。

だから、霧が晴れ、村に攻め込もうとしていた不死の怪物どもが後退していくのを見た時、少年は、女海賊がやってくれた、と思った。戦線が前進していくのを見て安堵したのである。

彼は隠れ場所から出た。

海浜へと続く道。そこには多数の死体が転がっていた。大半が、村へと攻め込んできた戦死者たちのものだが、村人のものもいくつかある。

彼は、この隙に村へ戻ることにした。

いや、そうしようとして、足をとられる。

「……っ!?」

何事かと目をやった少年は、見た。

突如動き出した屍。胴体を両断されて真に死していたはずの戦死者が動き出し、少年の足を掴んだのである。

「あ……っ離せ!こいつ!!」

少年は相手の顔を蹴りつけるが、何の効果も発揮しない。死者を傷つけるためには魔法が必要だった。彼にそんなものの持ち合わせはない。

ひとつを除いては。

「……ぁ…!」

女海賊の首が、口を開いた。わたしを使え、と。

少年は抵抗をやめ、相手に自分から近づいて行った。両手に抱えた女海賊の生首を、相手の首筋へと押し付けながら。

生首は、敵の喉元へかぶりついた。

肉が食いちぎられる音。

少年を引き寄せようとする、戦死者の力が抜けた。今度こそ完全に滅んだのである。

「あ……あははは……」

渇いた笑いを上げながら、少年は、女海賊を見た。

美貌の生首が返したのは、微笑み。

それでようやく、全てが終わったのだと少年は知った。

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