第四話 せーぶ あんど ろーど その2

仲直り大事(自暴自棄はあかんって)

「お疲れ様でした」

「……ぁ…」

見渡す限りの海。

航行中の船の上で、女海賊は自らの創造主から話しかけられていた。

先の戦いの後。

朝を迎えた島では被害状況が確かめられた。犠牲者8名。何十という強力な死にぞこないアンデッドが攻め込んできた割には少ない被害だったと言えるだろう。

後ほど女占い師が調査したところ、村を守る結界が綻びており、それが襲撃された原因であろうという結論が出た。まさしく翌朝には修復に取り掛かるよう依頼されていた部分であり、その意味では大変不運だったと言える。

攻め込んできた戦死者たちは島のはずれに埋葬され、その周りには何重にも縄で隔離された。もう化けて出てくることはなかろう。

一行の小島からの出発は、予定より一日伸びた。代わりに食料などの物資は無償で提供されている。

滞在期間中、女海賊はずっと土の下で眠っていた。全身に負ったダメージがあまりにも大きすぎたからである。彼女は集落を代表し、例の少年から礼の言葉を受け取った。本人はまんざらでもないようにも見えている。

そして今。

小島が遠く離れて見えなくなった段階で、フードの魔法使いは、むしろの下に退避して陽光を避けている女海賊へと話かけたのである。

「現代はどう思いましたか?」

「………ぅ」

「そうですか。それはよかった。

『どこに行こうと人間同じさ。

朝日が昇れば起き出して、飯食ってクソして働いて。夜になったら眠って。生きて。最後には死ぬ。貴賤なんざ関係ない』

私の師匠の、そのまた師匠がおっしゃられた言葉だそうです」

「……ぁ………」

「ああ、それとひとつ。

私は、あなたを従僕だなんて思っていませんよ。お友達になれればと思っています。

別に逆らったからと言って、貴方をどうこうしたりはしません」

「…ぉ……」

「ええ。氷神に誓って」


  ◇


―――まあ、信じてやるか。

女海賊の内心である。

このローブの魔法使いは、氷神の神官でもあるという。1200年経っても神はやはり変わらず信奉されているらしい。

まさか神官が神の名において誓ったことを違えはすまい。

1200年ぶりの世界は変貌こそしていたが、変わっていないものもあった。たった一人、この世界に放り出されてどうしようかと思っていたがそこまで捨てたものでもないらしい。

それに、もう一族のは自分しかいないのだ。軽々しく死んでしまっては、誰が一族の血を残すのか。いや、己にはもう血は流れていないが。

困った。子を残す方法を探さねば。

もう少しだけ、生きてみよう。


  ◇


「やれやれ……これはいい運動になりますな」

ロープを引きながら、交易商人はひとりごちた。

女性陣が言葉を交わしている間、男たちは帆走のために必死で働いていた。交代制だが、船員の若者は昼間の間、ずっと忙しい。夜になれば女海賊が代わってくれたが。

そんなわけで交易商人も忙しく動いていた。

彼は大陸南方に拠点を置く商人である。諸般の事情で、北の果てから荷物と共に帰還する際このロングシップを調達したのだ。

身ひとつから商売を起こした彼だったが、商いが軌道に乗って長いことたつ。おかげで最近運動不足だった。商売に忙しかったせいである。ばかり上手くなったかもしれない。

「ま、たまには体を動かせという神の思し召しですかな」

交易商人は、額の汗をぬぐった。

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