くっころのシーフ枠は基本人間やめてます(他と違う意味で)

剣とは、自分と同程度の身長の敵と戦うことを前提とした武装である。著しい身長差がある敵と戦う場合大変に攻撃しにくいのだった。

だから、骸骨王は眼前の敵を攻めあぐねていた。腰を低く落とした、身長1メートルの草小人を。

骸骨王は全身鎧に魔法の剣と完全武装である。対する野伏は明らかな毒液を滴らせる骨の短剣。被っているのは狼の毛皮だった。

互いに致命傷を与えうる武装。条件は五分と五分。

野伏が先に動いた。短剣を突き立てるべく走った彼女に襲い掛かったのはコンパクトな突き。

それを野伏は駆け上がった。魔力を帯びた刃を足場に敵手の手首まで駆け上り、そして手にした刃を振り下ろしたのである。

肩口にぶつかるかに見えたそれは、咄嗟に動いた頭部に遮られた。分厚い兜に傷をつけるだけに終わったのだ。

攻撃をしくじった野伏。彼女は素早く着地すると敵の足へ抱き着いた。いや、抱き着こうとした。

強烈な蹴りが彼女を跳ね飛ばし、両者の距離は一度開く。

「―――なんと。草小人の足の皮は分厚いとは聞くが。まさか剣を踏みしめても傷つかぬとは」

「……」

油断なく、両者は隙を伺い合う。

次に攻め込んだのは骸骨王だった。

立て続けの斬撃を見舞ったのだ。コンパクトな攻めなのは変わらぬ。大振りでは、この小柄な敵がたやすくかわしてしまう。

後退しながらも野伏は必死で反撃の隙を探す。されど見つからぬ。ついには隅にまで追い詰められる始末だった。

次の一撃を受け止めた骨の短剣は、砕け散った。

続く攻撃。野伏の致命傷となるであろう斬撃は空を切った。彼女が投じた手斧が、骸骨王の頭部に激突したから。

だがそれだけ。甲冑を貫けぬのであれば骸骨王は死なぬ。

野伏は既に徒手空拳である。敵を殺す手段を持っておらぬ。

だから、彼女はその場にあった武器をした。

空を切り、伸びきった骸骨王の剣。その刀身を、指輪をはめた手で握ったのである。

絶叫が響き渡った。

魔法の指輪は、が毒を帯びる呪物である。それは柄も例外ではない。

主以外の全てを害する魔法の病毒は、即座に骸骨王の掌へと浸み込む。

それでも彼は武器を手離さぬ。毒で手が硬直していたのだ。

絶叫し続ける骸骨王は、跪いた。かと思えば急速に叫び声は小さく、弱々しくなっていく。

敵手が完全に動きを止めるまで、野伏は掴んだ刃を握りしめていた。それからもしばしの間。

やがて敵が絶命した、と確信してからようやく、野伏は動き出した。相手の兜を剥ぎ取り、素顔を確認する。

それは死者。ほとんど骨だけとなった頭部にわずかな肉片がこびりついている姿からは、不死の怪物だったことだけが伺えた。

仇敵を屠った草小人は、天を見上げた。暗雲に包まれ、何かが今にも降りてこようとしている空を。

術者が死んだというのにそれは止まる気配もない。もはや止められぬのかもしれぬ。どちらにせよ、魔法的な事柄については野伏の能力の限界を超えていた。だから彼女は待った。仲間が、ここへ駆けあがってくるのを。

ややあって、塔の階段から獣が顔を出した。豹の頭が。

続いて出てきたのは、銀髪が麗しい小柄な少女。女楽士であった。

「……見て。あれを」

野伏が指さした先を、女楽士も見た。

暗雲の中からする凄まじい気配。放っておけばそいつは、この場に出現してしまうだろう。

「どうすればいいの?」

野伏の問いに、女楽士は答えた。塔を破壊すればいいと。

「分かった。じゃあ、加護を使う」

それに、女楽士は首を振る。自らの魔法で破壊する、と宣言したのである。

歌声が、響いた。

野伏もそれに合わせて歌う。

歌いながら、ふたりは階段を降り始めた。今までの道程を逆戻りしていくがごとく。

それは石で出来た塔の内部で反響し合い、干渉し、増幅し、最後には塔そのものすらも揺るがし始める。

いや。

塔の構造自らが、ふたりに合わせて歌声を上げ始めたのだった。

やがて一階まで二人と獣が降りた時、既に塔の歌は飽和状態を迎えていた。今にも崩れ去りそうになっていたのである。

全員が退去したのち、塔は静かに、内側へと崩れ去って行った。

同時に、塔が発していた異界の歌声も途切れた。空に広がる暗雲が霧散し、間近まで迫っていた巨大な気配が消え去っていく。

悪しき儀式は阻止されたのだった。

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