第四部 たぶん完(そろそろ女〇〇みたいな名前が枯渇してきたなあ)
その村落に魔法使いの姉妹が住みついたのはしばらく前の事になる。
恐ろしげな姿の彼女らを、村人たちは受け入れていた。姉妹は外見に似合わず親切だったし、ちょっとした、どころか相当の困りごとでも解決してくれたから。
姉妹は、魔法を駆使して村はずれに塔を建て、そこに住んだ。5階建ての塔に。
村に住まう草小人たち。彼らの子供は、肝試しと称して塔に忍び込むのが毎年の恒例行事となり、塔の
今年も、そんな子供たちが塔への侵入を果たした。
◇
姉妹が住まう塔の地上部分は、階段が外にある。円筒形で石造りの塔の外壁に、階段となる石が伸びているのだ。人間ならば大変怖い思いをするだろうが、身軽な草小人には足を滑らせるような間抜けはいない。危険はなかった。
彼らは5階までの各階へと潜入し、様々な怪物と戦った。空飛ぶ箒が掃いてくる埃にくしゃみをしたり、襲い掛かってくる桶が頭をすっぽりと覆ったりしたのである。大変困難な道のりを経ながら屋上へとたどり着いた彼らは拍子抜けした。姉妹が留守だったからである。
帰路に就いたかれらは、しかし奇妙なものを発見した。1階の床に、地下への通路が隠されているのを発見したのである。入口を隠していた絨毯が、子供たちの来訪を察知した時だけ敷かれているということなど彼らはもちろん知る由などなかった。絨毯には隠蔽の魔法がかけられており、魔法の素質がなければそもそも、地下への通路は見つけられないのだということも。
隠された入り口に興奮した彼らは、次々と地下へ飛び込んでいった。
◇
不思議な部屋だった。
地下だというのに、隅の暖炉で明々と燃えている
そして、絨毯の上に座っていたのは二人の魔法使い。普段ローブとフードで深く顔を隠している姉と、そもそも人前にあまり出てこない妹とが、子供たちを振り返っていた。
子供たちは姉妹のあまりにも恐ろしい姿に悲鳴を上げて逃げ帰って行った。
たった一人の男の子をのぞいて。
彼を、姉妹の妹は手招きした。首のない胴体。テーブルの上に置かれた生首は、とても美しい。
男の子は彼女の隣に座った。彼の向かい側に座ったのは姉である。皮膚が頭蓋骨に張り付き、落ちくぼんだ眼窩は怖ろしげではあるが、彼女の振舞った貴重な蜂蜜の方が男の子の関心を誘った。
男の子はたっぷりとそれを食べ、姉妹と言葉を交わした。様々なこの世の秘密を教わり、魔法の歌まで教わった。勇気が出てくるという歌を。
男の子はやがて眠気に襲われた。眠りに落ちる寸前、彼は魔法使いもいいな、と思った。
◇
男の子が目を覚ました時、そこは自分の家の中だった。草に覆われ木で出来た小さな草小人の家屋。
周囲を見回すと、母が枕元でこちらを見ていた。昔、魔法使いの姉妹とともに冒険を繰り広げていたという母が。
男の子は、姉妹の塔に潜り込んだこと、蜂蜜を食べたこと、自分も魔法使いになりたい、と思ったことを母に告げた。
母は、微笑むと男の子を抱きしめた。
「頑張りなさい」
母の言葉に、男の子は笑顔で頷いた。
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