自分の首が落とされたのを油断したの一言で済ませる系ヒロイン(野獣系)
少年騎士は、祖父の昔話を聞いて育った。
祖父は高名な賢者だった。世界各地を旅して様々な事物を調べ上げた彼が最後に興味を惹かれたのは、鱗に覆われたひとびとの使う不可思議な魔法。
数々の冒険を成し遂げ、吟遊詩人たちの歌の題材ともなった祖父。その中でも最も有名なもののひとつが、騎士は大好きだった。
それは砂漠に住まう
祖父の書斎の書棚には、その戦いにまつわるいくつかの品物が大切に保管されていた。
うちのひとつ。いや、ふたつ。黒髪の死者からの預かりものだというそれを読みたいとねだった少年に、祖父は内容を読み聞かせてくれた。好奇心の恐ろしさを熟知していたからであろう。実際、見せてもらえなければこっそりと読んでいたかもしれぬ。
そしてもう一つの品物。その戦いで、敵勢が残した魔剣。それを、騎士は譲り受けた。従士の身分の間は魔法の品物を(自作のものを除いて)身に着けられぬから、正式な騎士となった際に相続するように、と祖父は遺言を残していたのだ。
そう。祖父は亡くなった。寿命である。長生きした方だろう。満足気な死に顔だったらしい。残念ながら死に目には出会えなかったが、すぐに墓参りに行った。
そもそも、少年騎士が騎士になったのも祖父の語りが影響していた。
そして晴れて騎士となった彼は、探索の旅に出た。自らの竜を探しに。
……が、吹雪の中、闇の種族に逆さ吊りにされ、間一髪で助かり今に至る。どうしてこうなったのだろうか。
などと、狭い洞穴で考える羽目になっている。麗しい、黒髪の乙女(五体満足)に見詰められながら。
本当に謎だった。
◇
女勇者は、墓穴でもある洞穴の中に身を横たえながら、眼前の少年騎士の身の上話を聞いていた。
やはり予想通り、老賢者の縁者だった。しかも己の事を聞いて
痛快ではないか。こんな自分でも他者に多大な影響を与えることができているとはすばらしい。
しかしそうか。彼は死んだか。ここしばらくオアシスに来なかったから、体調が悪いのかと思っていたが。
冥福を祈ろう。
しかしこの少年騎士にはなんと教えてやったらよいだろうか。いや、自分がその物語の当人だと言えばそれですんなりと受け入れるであろうが。
ふむ。いたずら心が湧いてきた。気付くまで黙っているというのも手かもしれぬ。仮にもあの老賢者の孫であるならば自力で看破するであろう。たぶん。
首は繋いである。魔法の力である。と言っても大したものではない。あらゆる竜とその眷属が備えている「首は繋がっている」という肉体的構造を呼び起こしているだけだ。ごくささやかな力だから消耗もほとんどなく、持続時間も限りなく長い。寝ていても維持できた。首が繋がっていないと咆哮の魔法も、
だから、首回りが黒い鱗で覆われている以外は今の私は人間に見えるはず。まぁ血も通っておらぬ死体なのは変わらぬが。
それに、今の己は意識して人間として振舞おうとしない限り獣同然だ。
この十年、竜語魔法―――老賢者の命名であるが―――を身に着けたことで己も変わった。知性は変わらぬが、行動が動物的になり羞恥心も薄れたように思う。いや、元々かなり薄れてはいたが。
今この場にいるのは修行のためだった。そう。集落で身に着けるべきことは全て身に着けた。最後の修行。すなわち真なる竜へと転生するための不帰の旅に出たのだ。竜に転生するには、今の生命に終止符を打たねばならぬ。竜らしい最期を迎えねばならなかった。強者と戦い、自らを鍛えるという儀式の果て。強者に討ち滅ぼされる必要があるのだ。
先の
先は長いが、まあよい。どうせ幾らでも時間はある。闇の種族を狩っていればそのうち出くわすであろう。強敵に。まぁ闇の種族にまた殺されるのは業腹であるが人の類を襲うわけにもいかぬからやむを得ない。その程度にはまだ、元の種族に対する帰属意識はある。
さて。今後どうするか。元よりあてのない旅。この少年騎士に付き合い、しばし卵探しの旅に付き合うのもよいかもしれなかった。
◇
やがて夜が明け、吹雪が止んだ。
両者は着衣を身に着け―――寝床に敷かれた布は女勇者の衣だと知り少年騎士は慌てた―――外へ出た。
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