ファンタジー世界における塹壕戦の有用性について140文字以内で答えなさい(なぜ140文字)

―――おかしい。

暗黒魔導師は思案する。

敵勢に首なし騎士デュラハン以外の不死の怪物の姿が見当たらぬ。敵勢は、先遣隊の死体を再利用しなかったということであろう。不思議である。あれほどの死にぞこないアンデッドを作れる魔術師が付いているのであれば、当然用いていると思ったが。

まさかであろうか?首なし騎士デュラハンは意志を持つ。それも、昼間に活動している以上は狂っておらぬはず。義侠心に駆られて自発的に蜥蜴人リザードマンどもに付いた可能性は十分にある。

あるいは、最初の襲撃で死した可能性も低くはない。高位の魔術師と言えども人間である。刃物の一刺しで死ぬのだ。

敵に死霊術師がいないのであれば、死体を敵にされる危険はないということである。どころか、夜になればこちらができるのだ。素晴らしい。途中で手を緩め、兵を休ませるという選択肢が出て来た。戦闘が途切れた隙に不死の怪物を作られる心配をしていたが、そもそも死霊術師がいないのであればそれを警戒する必要はない。それは、夜戦においても、敵の弱点を補うべき不死の怪物がいないということでもある。

戦いを多少長引かせても構わなくなったのだ。

もっとも、そこまで考えた敵の策略かもしれぬ。あれほどの戦術を実行し、陣地を作る軍師である。油断するべきではない。

そこまで分析した暗黒魔導師は、しばしこのままで推移を見守る事とした。無理をする必要がなくなったから。


  ◇


―――それにしても数が多い。

女勇者は地下通路の一つでを取っていた。そう。墓穴と同じくここでなら死者たる彼女も回復できるのだ。これも、戦術的にこの陣地が有利なポイントの一つであった。陽光が届かぬから大変快適である。

最外周の堀は敵軍に明け渡した。予定の内である。そこを守備していた蜥蜴人リザードマンたちは後退し、現在は休憩に努めているはずだった。地下通路から侵入してきた者どもは火炎に焼かれている。次の防御を担当するのは第二防衛線を守備する者たちと、女勇者。

こちらの犠牲者は大変に少ない。力ある魔法使いの戦力はもともと大変に大きいものであるが、それに加えてこちらが防御側なのが有利に働いていた。

元より攻城戦とは攻撃側が防御側の三倍必要とされるが、この陣地における蜥蜴人リザードマンひとりあたりの戦力は控えめに言っても小鬼ゴブリンの数十倍はあろう。

敵が魔法使いでも条件は変わらぬ。姿を隠蔽する魔法もあるが、竜の鋭敏な感覚を身に着けられる蜥蜴人リザードマン相手では露呈する。堀の中でなら竜の吐息ドラゴンブレスは大ざっぱな攻撃で十分命中が期待できた。

攻撃に関しても、飛び道具とさほど状況は変わらない。地形を変えられるような大魔術であれば話は別だが。神出鬼没に敵を攻撃する蜥蜴人リザードマンや女勇者を捕捉し、撃破するのは大変困難である。

堀の全てを敵に譲り渡す前に、削り切る。それが、防衛側の魂胆であった。

休憩を終えると、女勇者は外へ飛び出した。


  ◇


太陽が傾き始めたころ。

外から二番目の堀を制圧し終えた突入部隊。その指揮官である闇妖精ダークエルフは、軍勢の首脳部より命令を受け取った。

―――内周へ通じる地下通路を潰せとの。

軍略に通じていた彼は、上司の意図を正確に悟っていた。制圧したへの敵の侵入を防ぎ、夜を待つのであろう。兵を休ませることにもつながる。この堀は攻撃側からすると厄介だが、動かぬのであれば防御に用いることもできないではない。

彼は与えられていた呪符を取り出すと、速やかに命令を実行すべく部下たちへそれを手渡した。

各所で響き渡る火球の爆発音。

後は、外周の堀から地下通路を通じて水や食料の補給を受ければよい。に数も減った。夜になれば闇の魔法によって、死体を起き上がらせることとなるであろう。焼死体でもまあ問題はない。見てくれは悪くとも敵を殺せればよいのだから。

長い午後が始まろうとしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る