地竜活躍しすぎではないか(地竜ありがとう)
陥穽。落とし穴ともいう。
穴を掘り、それを隠蔽することで、上を通過した者を落下させるというだけの単純な罠であるが、その殺傷力を高める手段は無数に存在する。
底に尖ったものを敷き詰める。木や石で押しつぶす。深さそれ自体による落下の衝撃。
そして、生き埋め。
崩れ去った穴に埋まれば、その質量故に脱出は容易ではない。もちろんそんな穴を掘ることは大変な労力を必要としたが、実現した落とし穴の威力は抜群だった。
さらにもう一つ。罠の重要な効力がある。
敵の足を止めること。先に罠にかかった者を見れば、知性ある者ならば警戒する。他にも罠があるのではないか、と。
まさしくそれらの効果を狙った落とし穴が、今闇の軍勢の眼前に広がっていた。
◇
―――小癪な。
上空より使い魔の視界を得て戦場を俯瞰していた暗黒魔導師は、何が起きているのかを理解していた。
交戦は開始されている。弓や投石紐による一斉射撃を浴びせかけ、敵が頭を出す隙を封じたところで
堀の中では敵の火炎が雑兵を焼き殺し、地獄の様相を呈していた。上空よりの俯瞰では敵の配置は見て取れたが、しかし突入部隊へと伝える術がない。
そして問題となるのが、主力であるはずの
生き埋めだった。脱出するのも不可能。あれでは助かるまい。
もちろん、人間であればあれほどの落とし穴をこの短期間に掘ることはできぬ。しかし
とはいえ、落下していったのは一部に過ぎぬ。敵の
使い魔を飛ばし、命令を伝達する。
さあ。進め。そして我が手に、
◇
―――GUOOOOOOOOOOOOOO!
堀の中。
無数の
見上げれば、岩山の頂上に立つ物見が腕を伸ばしている。
それを確認した女勇者は、堀の中を走り、地下通路を抜け、目的地まで到達すると跳躍。更には壁を蹴飛ばし、地上へと躍り出た。
眼前には見上げるようなライオンの頭部。その額へと、戦斧を一撃する。
即死した怪物を無視して走る。更に後方より接近してきたもう一体の足を切断し、首を刎ねたところで後退。堀の中へと転がり落ちたところで、幾つもの弾けるような音が響き渡り、頭上を幾つもの稲光や火矢が飛び交っていく。
魔法による反撃であった。
一撃離脱。
それが、女勇者たちの選択した戦術である。敵に捕捉されれば魔法にやられる。ならば逃げ隠れしながら戦えばよい。そのために隠れ場所を大量に作ったのだ。上空には何やらフクロウが飛翔しているが恐らく敵の使い魔であろう。昼間だというのにご苦労なことだ。しかし、地下通路までは把握できまい。伝令も間に合わぬはず。
敵とてそんなことは承知の上であろう。犠牲を出してでも女勇者を押しつぶす覚悟なのは見て取れた。
―――さあ。我慢比べといこうではないか。
まだ太陽は昇ったばかり。敵は不浄の生命も闇の魔法も投入できぬ。対する
不安材料もある。
敵勢が減れば、皮肉なことではあるが継戦能力は増大するはずである。物資に対して、それを胃袋へ納めるべき者どもが減るであろうから。夜になれば死体の再利用もできる。現在の攻勢はそれを企図しての事だろう。口減らしというわけだ。こちらの戦力も削ることができて一石二鳥だ。いや三鳥か。
それでも、敵を減らさないという選択肢は存在しない。
だから、女勇者は念入りに雑兵の屍を砕いた。二度と立ち上がることがないように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます