出落ち(文字通りの意味で)
ライオンの頭部と山羊の胴体。そして毒蛇の頭部と化した尻尾を持つ、闇の魔法によって生み出された巨獣である。その体高は3メートル近くにも及び、巨体を生かした戦闘能力は侮れぬ。それだけではない。この怪物は、闇の神々の加護を受けるのである。歪んだ肉体に宿った邪悪なる霊は優れた知能を備えていた。
そして、何よりも恐ろしい点。この怪物は肉体的には自然の法則に従っていた。故に、陽光で焼かれることはない。内に宿る霊は陽光に痛めつけられはするものの、肉体という防壁によって守られている。
今、十体もの
◇
闇の軍勢の主力は
そういった成体を下級指揮官とするのであれば、中級指揮官となるのが
そして彼らの後方。闇の軍勢の支配者たる暗黒魔導師の輿を担ぐのは、甲冑を纏い、腰に剣を帯びた怪物ども。一見人間の骸骨にも見える彼らは、秘術によって生み出された
昨日の空襲によりそれなりの被害は受けたが、致命的ではない。散開して野営していたおかげであろう。残存兵力は合流した先遣部隊の後詰と合わせて五百と言ったところ。しかし魔法戦力は少ない。
呪符は魔法の心得のない者が使用すれば、引き裂いたその場で発動してしまう。故に
だから、
まずは
以上が、全軍を率いる暗黒魔導師の目論見であった。
もちろん、防衛側もそんなことは承知していた。
◇
「やれやれ。おっかないのう」
多重の防御が施された内側。オアシスの中心付近より、老賢者は敵を観察していた。
腰に下げているのは偃月刀。先日の敵より奪ったものの中ではこれが最も状態がよかった。老いたとはいえ
いざ戦いが始まれば、老賢者には仕事がない。意思疎通はかなりマシになったとはいえ、やはり自在とはいかぬからである。少数の青年たちと共に子供たちの面倒を見るのが彼の仕事であった。
◇
女勇者は待っていた。
隠れ場所の中から、敵を削り取れるタイミングを。現状で最大の脅威は
―――堅実なことだ。
女勇者は苦笑。
もっとも、魔法使いという人種は用心深いと相場が決まっている。敵将、あるいはその軍師はおそらく魔法使いであろうから不思議ではない。
まあ問題ない。
己は、
入り組んだ堀の中で火炎を吹きかけられた奴らがどのような死にざまを見せるか想像するだけでも痛快である。
どうやら
恐ろしい魔法である。魔法使いと戦う際の常識が通用しない。
やがて。
次々と感じられる地響き。そして土砂崩れのような音。
女勇者は、敵が罠にかかったことを悟った。
歩兵用ではない。
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