やってきました大規模戦闘のお時間です(いつもの)

「しかし、寒いのう」

そこは、満天の星々が照らし出す岩山の頂上。

何重にもマントをかぶって寒さから身を守っている老賢者は、首を抱いて座る女勇者へと語り掛けた。

昼間の攻撃で、敵勢にダメージを与えることは成功した。とはいえ油断はできぬから、彼らは見張りを買って出たのである。

他にも蜥蜴人リザードマンたちは交代で見張りをしているが、彼らは寒さに弱い。それよりは人間と死にぞこないアンデッドの方が優秀であろう。

戦いのための準備は、昼の間におおむね終わらせてある。長期戦になれば有利なのは蜥蜴人リザードマン陣営の方だった。何しろ子供たちと老賢者を除き、いかなる物資も必要としない。そしてその程度ならばオアシス内で獲れる魚や、先日闇の者どもから奪った物資だけで十分賄える。対する敵は魔獣まで連れた大軍である。

「奴ら、たまげるじゃろうて。なにせ大したものなど何もないオアシスが要塞になっておるんじゃからの」

老賢者の言葉に女勇者もした。幾多の戦いを経験してきた彼女の視点からしても、現在のオアシスは要塞と呼ぶにふさわしい。

それを成し遂げるだけのを実現したのは、蜥蜴人リザードマンたちの驚異的な能力であるが。

彼らが文明を持っていれば、この地上で並ぶもののない勢力を誇っていたであろう。しかし現実には彼らは文明を持てぬ。まことよくできている。

「しかし。

闇の種族にさらわれてきてどうしよう、と思っていたらあれよあれよという間に大戦争じゃからなあ。人生分からんもんじゃて」

老賢者も従軍経験があった。故郷の都市国家で市民軍として、闇の種族と戦ったことが幾度もあるのだ。戦闘前だというのにこの落ち着きようなのもそのおかげであろう。

「あ。そうそう。もしワシが死んでお前さんが生き残ったら、家族に手紙を届けてくれるかいの」

女勇者へと彼が差し出したのは、布に書かれた手紙。闇の者どもから剝ぎ取った布である。闇の種族にさらわれてから、女勇者に救われ、そして蜥蜴人リザードマンたちと共に戦うまでの流れ。この集落で見聞きしたすべて。そういったことが書かれた手紙だった。

女勇者はしばし考え、それを受け取る。戦いでは誰が死ぬか分からぬ。備えは必要だった。

対する女勇者も、手紙を差し出した。いつも大切に持ち歩いている、二つの竹簡の束を。

「よかろう。大事に預かるとするわい」

手紙を大切に受け取る老賢者。

両者はこの後も雑談を続けながら、待った。

夜明けを。


  ◇


―――なんだ。あれはなんだ!!

太陽が昇り、しばし経った頃。

予定より大幅に遅れて、闇の軍勢はようやく、オアシスの前に陣を張った。

この時点で相当に厳しい。できれば夜に襲撃をかけたかったが、物資には限りがある。大軍は大喰らいだった。やむを得ない。

だが問題はそんなことではなかった。暗黒魔導師を驚愕させていたのは、眼前に広がる光景であったから。

そこにあったのは、オアシスの周囲へ幾重にも重厚で複雑な堀と地下通路が張り巡らされ、そこかしこに土塁が積み上げられた、強力無比な砦だった。

どうやって、僅か一日であそこまでのを成し遂げたかは容易に想像できた。地竜モールドラゴンあたりに変身し、掘り進んだのであろう。使い魔を張り付かせて監視させておかなかったのは痛恨の極みであったが、砂漠の過酷な環境では長時間の単独行動は不可能だった。肉体的には使い魔はあくまでも動物でしかない。

敵は巨体に変身しての戦闘を諦めたのであろう。魔法解除ディスペル・マジックの呪符を警戒してのことに違いなかった。

闇の軍勢は堀を越える準備などしておらぬ。空堀の中に突入しての戦闘となるであろうが、そんなところに入れば竜の吐息ドラゴンブレスの格好の餌食となる。飛竜ワイバーン蛇竜ワームは火炎を吐き出す能力を持たぬが、昨日の襲撃部隊がそれを吐いていた以上、蜥蜴人リザードマンの姿のままでも吐くことはできると考えるべきだった。

その上敵勢には首なし騎士デュラハンまでもがいる。

魔獣どもを突入させれば、からの攻撃で突き崩されよう。

なんと厄介な。これでは城攻めではないか。それも、敵は無限に籠城を続けることができるのに対して、こちらは時間に制限がある。

止むを得ぬ。

被害が多くとも、最終的に秘宝を奪取できればよいのだ。奴らを皆殺しにする必要性はない。

暗黒魔導師は腹をくくると、必要な指示を出した。

城攻めが始まった。

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