できるのであればやる奴は絶対に出ます(だって人間だもの)
太陽が、その頂点からやや傾き始めたころ。
砂漠にて野営していた闇の軍勢。
警戒の任に当たっていた
どうせ敵も攻めては来るまい。こちらは圧倒的多勢である。万一攻めて来たとしても恐れる必要はない。万が一の時は隣の同僚を盾にすればいい。
―――なんだ?
鳥か何かだろうか。ええいまぶしいな。
目を細めた彼は、太陽の中に幾つもの影が存在することを確認した。鳥にしてはおかしい。
やがて、それは接近してきた。かと思うと、翼を畳み、次々と急降下したのである。
こちらの方へ。
一部始終を眺めていた彼は、警戒の声を出すのが遅れた。
それが、軍勢の命運を分けた。
急降下し、地表近くで再び翼を開いた彼ら。すなわち、魔法によって
それも、
航空戦力による急降下爆撃であった。
―――なんだ。何が起きている!?
混乱した彼は、巨大な
盾にすべき同僚ごと、射手は燃え尽きた。
◇
軍勢の上空を通り過ぎると、
この策を考えたのは老賢者である。先頭の者―――例の若者が志願した―――が右側から突入し、後続の者がその左を、次の者はさらに左を……ということを繰り返すことで、敵全体へ効果的な攻撃を行うことを可能としたのだ。太陽の中へ紛れるというのは女勇者の意見だったが。
老賢者は木の枝で地面に図を描き、
彼らは、貴重な時間を犠牲なしに稼ぎ出したのだった。
◇
―――おのれ!警戒を強めたというのに裏をかかれたか!
暗黒魔導師は激怒していた。己の予想の甘さに。
敵には相当以上に頭の切れる軍師がいると見える。
それに、
何にせよ、攻撃してきたということは迎え撃つ気であろう。
こちらも相応の覚悟をして挑まねばなるまい。
◇
時間は少々巻き戻る。
女勇者と老賢者。そして集落の者たち数名は静謐な空間にいた。
負傷し、寝床で休んでいた若者。生命力の象徴たる蛇の魔力で傷を癒した彼に案内された先だった。岩山の中腹にある亀裂の奥である。
そこには、津々と水が湧き出る泉があった。そこから流出した水が再度地下へと戻り、オアシスの水源となっているという。
泉の中に沈んでいる蒼き宝玉こそが、若者が言うところの秘宝であった。
原初の時代、母なる混沌の巨人から生まれ出た者たち。それが
そもそもが、この地に
この伝承は、集落の長老たち、そして一定の力量に達した者だけに伝えられてきたそうだ。だが、昨夜の戦闘で、それを知るのは若者だけになってしまった。だから彼は、残った集落の者たち。そして、この戦いに巻き込む形となってしまった客人たちへとこの事実を伝えたのである
老賢者は、納得すると同時にこう発案した。
「敵の目的がこれというのは理解した。闇の種族に渡してはいかんということも。なら、これを持って一族で逃げるというのは?」
若者の返答は否定であった。
宝玉は触れるものを焼き滅ぼす。真なる竜の炎に焼かれても耐えられる者だけが、秘宝に触れ、持ち運ぶことができるのだと。
そんな者は、この集落にはいなかった。竜語魔法を使いこなす
だが、敵勢はその手段を得ているはずである。でなければ、運べもせぬ秘宝を奪取するために軍など繰り出しはすまい。
この時点で、一同の方針は定まった。戦える限りは闇の軍勢と戦うのだ。闇の軍勢に秘宝を渡すわけにはいかぬ。
女勇者は、
こうして、敵を迎え撃つための準備が始まった。
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