くっころは情報戦でできています(敵の手の内なんてわからないからねえ)
闇の者どもが担ぐ輿。一筋の光すら差し込まぬその空間で、暗黒魔導師は思案していた。
戦に想定外の事態は付き物だが、今回のそれは極め付けだ。
厄介な事になった。あれほどの
傍に控える護衛へと目をやる。
昨夜送り込んだ
例外はふたつ。
ひとつは、真なる竜。竜はいわば肉体を得た炎そのものである。炎が焼け死ぬわけもなかった。
そしてもうひとつ。竜の炎の洗礼を受けた戦乙女。既に焼かれているのだからそれ以上は焼けぬというわけだ。死者が死なぬのに似ている。
もちろん、竜の炎を浴びた乙女が生きていられる道理はない。また、条件を満たした死者自体が希少である。死体や遺留品すらめったに残らぬ。故に、これを作るには、恐ろしく手間暇がかかった。古代の文献を調べ、墓を暴き、灰から塩を取り出し、生前愛用していたという武具を探し出し、そして冥府から魂を引きずり出してくる必要があったのだ。
それも、闇の魔力に頼ることなく。穢れがあれば秘宝によって拒絶されるが故に。乙女である理由もそこにある。
同じものをもう一体作ることは不可能ではなかろうが、恐ろしく困難である。安易な投入は躊躇われた。
何にせよ、敵の出方次第である。奇襲が失敗した以上、昼のうちに反撃を受ける危険も考えておかねば。
◇
雲ひとつない青空を飛翔する
5メートルの巨体で羽ばたく彼は
斥候は、数多い者―――文明を持たぬ
闇の軍勢。
安堵した
人の足ならば半日はかかるであろう距離を飛翔したころ、それは見えて来た。
凄まじい数の兵士たち。巨大な怪物を多数引き連れた奴らは、闇の軍勢であった。先の集団は逃げていくのではない。本隊と合流するつもりだったのだ!
そこまで見て取った斥候は帰途に就いた。一族へ危機を伝えるために。
◇
それを知ったふたりの人間も最初それには面食らっていたものの、差し出された故人の肉を口へ含んだ。昨夜の戦闘に参加した彼女らは葬儀への参加を認められたのだった。
女勇者にとってそれは滋養にはならぬが、しっかり噛みしめると、首の切断面を重ね合わせた。嚥下し、胃袋に収めるために。
残された遺体から飛び去って行く死者たちの霊魂。それは、きっとどこかで新たな生命へと生まれ変わるのであろう。
彼らの旅立ちを見送る彼女の内にあったのは、羨望だろうか。
常ならば死者の全てが食べ尽くされるのだそうだが、昨夜は死者が多かった。十二名が亡くなったのである。残された九十近い者たちでも食べきれぬ量の遺体は本来であれば砂漠の獣へとゆだねられるが、敵が迫っている中では辱められる可能性が高い。それも、闇の魔法によって。オアシスの大地へと埋められることとなった。
そして敵勢の死体。これも再利用されることを防ぐために処分する事となった。一か所に集めた死体を、
己の呼吸器へと魔法を付与した彼らは、胸郭を膨らませ、そして一気に吐き出した。
吐き出された魔法の炎は、闇の軍勢の屍を一気に焼き清めた。
「たまらんのう……」
老賢者の言葉に、女勇者も同感だった。種族に関わらず知己を戦いで亡くすのはつらい。
しかし感傷に浸っている暇はなかった。敵勢が迫りつつあったからである。
迎え撃つことはできるだろう。
昨夜の惨状は
知っていれば対処法はあるとはいえ、厄介な事に変わりはない。
ましてや斥候の報告では、敵は巨大な怪物の類を多数連れていたという。女勇者の翻訳を経てその外観に関する情報を伝えられた老賢者は、敵の正体を類推した。闇の魔法で作られた強力な魔獣の可能性が非常に高い。それも、陽光の下でも活動できるよう、生命ではなくその肉体を歪ませ、内に邪悪なる霊を宿らせたもの。維持に魔法を必要とせぬ歪んだだけの肉体は、陽光でも焼かれぬのである。闇の魔法によって受けた傷が陽光を浴びても癒えぬのと理屈は似ている。
もちろんその戦闘力は、昼の方が低下するのは間違いあるまい。
とはいえ、そんなものを作れる者が敵勢に含まれている、という事実自体が老賢者を戦慄させた。闇の魔法はただでさえ強力だというのに、敵にいるのはそれに秀でた力ある魔法使いなのだから。
あまりにも厄介であった。敵を殲滅する事自体はできるかもしれぬ。されど、それは昼の間に敵を急襲し、こちらの戦える者全てが命を捨てる覚悟であるという条件がつく。
もちろんそんなわけにはいかぬ。残された子供たちを養える者がいなくなってしまう。
いずれにせよ敵の目的が不明である。これほどの大戦力を用意してまでわざわざ、略奪すべきもののない
わずかに捕らえた雑兵どもは老賢者が尋問したが、彼らはろくなことを知らなかった。こうなると指揮官を捕らえられなかったのが痛いが、不死の怪物を捕らえるわけにはいかぬから仕方あるまい。
敵の目的がこの場所自体にあるのであれば、逃げるという選択肢もあり得る。しかし、そうでなければ。
一同は頭を悩ませた。客人ふたりを交えた軍議の席、オアシスの日陰。女勇者には特に日が当たらぬ場所を与えられている。
そんな時であった。
―――Guuu……
疲労した様子ではあるが五体満足で寝床から出て来たのは、
若者は、告げた。
敵の目的は、きっと
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