ドラマがない奴はどんなに強くても雑魚なんですよ(物語における真理)
―――なんだ。俺はどうなった。何が起きている!?
混乱する
新たなる名を
それは、武装に持ち主の怨念が宿り、動き出した不死の怪物である。彼らは死者である。故に死ぬことはない。もはや彼らの肉体である甲冑は、その魂魄の腐敗度合いに合わせるかのように錆びていく。高潔なる死霊騎士ならば新品同様だが、邪悪なる死霊騎士の甲冑は錆びだらけとなるのである。
高潔さという概念など持ち合わせていない小鬼が闇の魔法で転生した彼は、もちろんその全体に錆が浮き、そして邪悪極まりないオーラを放っていた。
―――ああ。渇く。飢えがひどい。生命を。生命をよこせえええええええええええ!
つい先ほど自分の脚を切断した同族を無視し、生命ある者の姿を探る。
やがて、つい先ほどまで部下だった
◇
戦斧で武装した首のない女。
そいつに薙ぎ払われていた
女の手が止まっている今こそ逃げねばならなかったが、あまりの異常な雰囲気に飲まれていたのである。
やがて、中身が消滅し尽くし立ち上がった上司。
彼の視線がまず向いた先は、敵である女ではない。
自分たちだった。
―――ああ。なんであいつは、中身がないのに目が爛々と輝いているんだろう?
槍を持った小鬼の一匹は、かつて上司だった不死の怪物と目があった。
構築された呪術的経路を通じ、生命力が急速に流出する。それは、不運な小鬼の生命を奪っただけではない。死すらも略奪した。無からさらに膨大な生命力を吸い取ったのでる。
小鬼に残されたのは、負の生命力。
不浄なる生命。すなわち
同じく呆然としていた手近な同僚へと、手を伸ばした。
地獄が始まった。
◇
―――なんという事だ!
女勇者は、何が起きているかを正確に理解していた。敵指揮官が闇の魔法によって、不浄なる生命へと転生を果たしたのである。どころか、手近な部下たちを、同じく不浄の生命へと転生させつつある!
速やかに頭を潰さねばならない。さもなくば数で押しつぶされる。
戦斧を一閃。多数の四肢が、胴体が千切れ飛ぶ。戦斧が届く限りの敵勢を一掃すると、女勇者は踏み込んだ。
剣と盾をこちらへ向け、迎え撃つ構えの敵。
両者の武装が激突した。
◇
地下空洞。
その奥には、まだ多数の
だから、彼らは奥底でじっと息をひそめていた。
そんな彼らの視線の先。入口の方から侵入してきた闇の種族どもの目が爛々と赤く輝いているのに、老賢者は気が付いた。
彼は叫んだ。
「まずい。あれは不浄なる怪物じゃ。銀か魔法でなければ通じぬぞ!」
この狭い地下で変身などできようはずもない。どうすればよい?どうやれば奴らを退けられる!?
◇
―――手ごわい。
敵指揮官と刃を交える女勇者。その攻防は一進一退だった。
怪力ではこちらが上回っている。しかし、それは埋められないほどの差ではなくなっていた。そして相手は完全武装。手にしている剣や盾も、今や邪悪なる魔力を帯びている。対する女勇者は得物こそ強力な魔法の武器ではあるが、その身を守るべき甲冑が存在しない。
ましてや。
背後から抱き着こうとしてくる
それを隙とみた敵指揮官は、襲い掛かった。
◇
地下空洞。
―――なんと。素手で迎え撃つ気か!?
驚愕する老賢者の眼前で、彼は咆哮を上げた。
―――GUUUUUOOOOOOOOOOO!!
魂を揺さぶる声。
言葉とは魔法である。その最も原初的な形態である咆哮は、洗練されていないが故の力強さを秘めていた。
強大無比な威嚇の声は、不浄なる怪物どもの悪しき魂を打ちのめす。奴らの生命を支える不死の魔法を砕いたのである。
次々と倒れ伏す、不浄なる怪物ども。
「これが、彼らの魔法か……っ!」
霊感ではなく、その知識によって何が起きたかを正確に推察した老賢者は驚嘆した。今まで見ていた彼らの能力は、氷山の一角だと悟ったのだ。
―――見つけた。
老い先短い老賢者が、残る生涯をかけて追い求めるべき最後の謎。
深淵なる竜語魔法は、それにふさわしく思えた。
◇
―――邪魔を!生命を啜る邪魔をするなああああああああああ!
死霊騎士は踏み込んだ。眼前の同族には何の魅力も感じない。こいつには啜るべき生命がない。こいつと戦っても渇きを満たせぬ。
敵手に生じた隙。それに乗じて踏み込み、強烈な刺突をお見舞いする。
彼が突き出した刃は、同族の腹を貫いた。
密着するほどに近づく両者。
だが。
首のない女はニヤリと笑みを浮かべると、武器を握る左手を手放し、そして抜き手を放ったのである。
そう。鎧で守られていない唯一の部分。すなわち死霊騎士の両目へと。
霊そのものをえぐる一撃。
―――ぎゃああああああああああああああああああ!?
仰け反った彼は突き飛ばされた。間合いが開く。目が見えない!剣は手放してしまった!
そこへ加えられた追撃。すなわち、両手で力一杯に振り回された戦斧は、邪悪なる
◇
朝日が昇る。
地上へと出て来た老賢者が見たのは、無数の屍。
そして、その中心に立ち尽くした首のない女人だった。
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