そういえばこれくっころで二人目の職業:騎士ではないか(いや首なし騎士という観点で行くといっぱいいるけども)

―――立派になったものだ。

女勇者は、故郷であるはずの城塞都市の前に立ち、城門を守る兵たちとにらみ合いを続けていた。既に相当数の矢弾を浴びせかけられた後の事である。陽光が降り注ぐ、昼日中。斧を足元に突き立て、衣を纏い、左の小脇には生首を抱えている。

思案の上でのことだった。

故郷が昔の小さな村のままであれば、忍び込んで友人や家族に会う事も出来ただろう。だが、この規模の都市に忍び込み、変わってしまった構造の中で知己を探すのは不可能に近い。

ならば、真正面から堂々と訪れるべきだと思ったのだ。

魔法の武器しか通用しない強力な死にぞこないアンデッドが出現したとなれば、太陽神の神官たちは総動員されるだろう。知った顔もいるはずである。もし、ここが故郷であるならば、だが。

それに、そんな状況ならば魔法使いも出てくるに違いない。これだけの都市である。仮に定住している者がいなかったとしても、何らかの事情で訪れている者もいるだろう。女勇者は声を出せぬが、魔法使いであれば言葉が通じるはずだと睨んだのだった。

唯一の問題点は、彼らと一戦交えたあと、無事に逃げ延びられるかどうかということだけ。だが、女勇者はその点については楽観視していた。太陽神の神官最大の武器である陽光の召喚は自分には効かぬ。気分が悪くなるだけだった。まぁ今は昼間だから、これ以上悪くなることはあるまい。神聖なる武具セイクリッド・ウェポンや聖水を振りかけた武器ならば通用するが、その場合でも最悪、死ぬだけだ。太陽神の神殿は、滅ぼした死にぞこないアンデッドも供養するから死んだあとの点は心配いらなかった。

それにしても、今日はいい天気だった。快晴と言ってもよい。曇っている日を選ぶべきだったかもしれない。

そんな事を思いつつ、女勇者は待った。


  ◇


「馬鹿な……あの方は……」

城壁の上より件の死にぞこないアンデッドを見た老神官は、驚愕の表情を浮かべていた。何故ならば、彼女が小脇に抱えている生首に見覚えがあったからである。

そう。つい先ほど、客人との雑談で話題に出した神官。彼女はそれと同じ顔を持っていた。

だが、そんなはずはない。彼女は五十年近く前に死んだ。それが、今更さまよい出てくるなど。

彼女は口を開き、何かを叫ぼうとしているようだが、残念ながら声は聞こえない。出せないのかもしれない。

神官とは知識階級である。だから、それなりの規模の神殿で長い間研鑽を積んできた老神官も、あの死にぞこないアンデッドがどのような性質のものであるかは知っていた。首なし騎士デュラハン。首の切断が死因となった勇猛果敢な武人に魔法が付与されて生まれる強力な死にぞこないアンデッド。必ずしも邪悪な存在ではないが、しかし往来を塞がれている以上速やかに排除する必要があった。街の住人たちも不安がっているし、城壁に守られていない、外からの旅人たちからすれば恐怖以外の何物でもなかろう。

対応に苦慮する老神官。そんな彼は、高らかに響き渡る音色を耳にした。空から吹き鳴らされている、勇壮な角笛の音を。

天を見上げた彼の視線の先。

そこを飛翔するのは、人が跨った強大なる魔獣。

―――竜。

「いかん!」

戦う気なのだ。客人は!!

されど。

止める手段は、ない。


  ◇


角笛の音色は、女勇者の耳にも入っていた。出所を探り、そして上空。こちらから見て太陽が背になる位置を占位した、巨大な生物の姿を確認する。

竜。

全身が細長く、鱗に覆われ、皮膜を備えた翼を持ち、頭部からは角が生え、鋭い牙が生えそろい、四肢には鋭い爪が伸び、長い尻尾を備えた、強力無比な怪物である。

―――竜騎士ドラゴンライダー。問答無用か。

先の角笛は、味方に対して自分の存在を知らせるものであろう。奇襲を受けずに幸いしたというところか。騎士は正々堂々としたものだが、それは人間相手の場合に限られる。闇の種族や不浄なる怪物相手に戦う時、正々堂々という概念は存在しない。

女勇者は苦笑。

―――それにしても、故郷の者は気が短くなったものだ。

敵に向き直る。高位の竜は存在そのものが魔法である。死者を殺せるはずだ。それに、竜騎士ドラゴンライダーの武装も魔法を帯びている可能性がある。あるいは神聖なる武具セイクリッド・ウェポンや聖水による祝福。

いずれにせよ、単騎で一軍に匹敵する竜騎士ドラゴンライダーと一騎打ちせねばならぬということだ。彼らは高位の魔法使いと並ぶ、人の類の切り札である。闇の種族の邪悪なる魔法に正面から立ち向かえる稀有な存在なのだ。だが、それ故に追随できる者がいない。街の兵や神官たちは戦いに関わってはくるまい。

―――よかろう。死んでも恨むなよ。

左腕でしっかりと首を抱え直す。防御を考えるなら柄に生首をかじりつかせることはできなかった。戦斧の巨大さを盾とせねば。

そして、一騎打ちが始まった。

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