これどうやって倒しましょうかねえ(考えなしに出した)
角持つ娘を刃で刺した直後。
黒衣の少年は、娘ともども己が螺旋階段の前、観客席でもあるそこへと運ばれて来たことを悟った。遥か背後では首を持たぬ女たちが、敵勢と壮絶な乱戦を繰り広げている。
そこまで確認した彼は、己の役目に専念した。娘を守り、この場から逃げ去るという。急所は避けたとはいえ負傷した娘をそのままにはしておけぬ。だが問題なかった。少年は聖句を唱え、神へと―――愛する女性へと、願ったからである。治癒の加護を。
彼の魂に設置された祭壇を通じて顕現するのは、強壮ながらも暖かな力。癒しの霊力が少年の体を通して、娘へと流れ込む。肉が盛り上がり、傷口が塞がる。肉体の治癒力が著しく増進された結果であった。かすかな傷跡こそ残ったものの、娘の負傷は完全に癒えた。
娘を肩に担いだ彼は、再度後方を確認する。―――なんだ、あれは。
突如としてそこに屹立していたのは、巨大な武装。途方もなく、それこそ山脈とも思えるそれは、確かにこちらを視た。どころか、たちまちのうちに動き出したのである。
そいつが突き立った岩肌が変色する。刃と同じ蒼い金属へと急速に変質した様はまるで染み。それは、瞬時に二方向へと伸びた。
死者たち。2名の
彼女らの足元まで伸びた染みは、そのまま肢体を駆けのぼり、そして全身を覆いつくす。
刹那の間に、死をまき散らしていた女たちは、蒼く美しい金属像へと姿を変えていた。
「―――な」
その一部始終を見ていた少年は絶句。無理だ。あんなものに勝てるわけがない。
だが、それで終わりではなかった。
染みは広がる。周囲に散らばる屍どもへと。女剣士たちに切り捨てられた闇の戦士たちへ覆いかぶさる染み。屍は蒼く染まり、溶け、寄り集まり、繋がり、生前の姿の彫刻と化し、最後に染みが引いた。起き上がる死者たち。否。蘇ったのである。
死者の蘇生。
まさしく、異界の神と呼ぶにふさわしい権能。刃だけであれならば、本来の
少年はそこまで確認すると、娘を担ぎ直して即座に踵を返した。逃げるしかない。だがあんなもの相手に逃げ切れるのか!?
◇
闇の神霊は、宙へと引きずりあげられる最中、突如として己が自由になったことを悟った。
見れば、上方へ伸びているのは不可視の手。神霊が知るいかなるそれとも異なる、霊力による無数の触手が上空へと伸長していたのである。円筒の空間、その中空へ浮遊している十三枚の翼持つ半神へと。対処に忙殺されている星霊がもはや神霊を攻撃する余力などない事は明白であった。
下方を見やる。殺された部下たちが蘇り、対して裏切り者と女剣士はともに蒼き金属像へと姿を変え、微動だにしない。神器の神通力によって無力化されたのである。首がどこにいるかは謎だが、胴体がこの有様では大したことはできまい。
恐るべき力。
ボロボロに傷ついた神器へと目をやる。凄まじい巨大さは、今にも崩れそうにすら見える。19年前の事件では、間近で神器の1本が自爆した。それによる損傷であろう。
にもかかわらず、これほどの権能があるとは。
ただ、神器の攻め手は積極性に欠けるところがあった。上空の星霊が今だ屠られていないのがその証左である。恐らく、召喚者―――闇の神霊の安全を確保することが最優先と考えているのであろう。救いを求める声によって招き寄せたのだから当然かもしれないが。
思案し、祭壇を通じて神器へと呪術的経路を開く。神器への要求はふたつ。退避場所としての器の提供と、そして神器の備える余剰計算力の一時的割譲である。
召喚者である闇の神霊の要求は速やかに受け入れられた。祭壇を通じ、闇の神霊は神器へと吞み込まれて行ったのである。
それはすなわち、
反撃が始まった。
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