気が付いたらもう100話目だよこれ!(なんてペースだ)

―――うまく行ったか……

円筒形の空洞たる神殿。その中空。

キロ単位の距離を隔てて敵神とながら、女神官は安堵した。

このまま下方の空中線アンテナを破壊してしまいたいところである。が、敵神の抵抗により果たせぬ。ええいこの老婆め!大人しくせぬか!何、こちらの方が年上であると?やかましいのである!

我が従者たちは必死に戦ってはいるものの、何しろ敵の数は多い。質は大事であるが、次からは数も揃えねばならぬな。おっと。少年と、その手に抱えられた娘を運び去る。余裕がない、我が友人の背後までが限度である。厄介な。急がねば神器と一戦交えねばならぬ。魔法わたしも星霊、神獣と幾度となく刃を交えたことがあるが、あれを貫く威力など想像もつかぬ。結局我らは、神獣にかすり傷一つ負わせることはできなかったのだから。神器はそれを傷つけたのだ。当然、不壊でもあるだろう。

その時だった。

神速―――否。

で、何かが魔法わたしの真横を行った。

この感覚に近いものを知っている。―――神獣。

仮にも神の端くれたる魔法わたしが影しか知覚できぬ速度で、眼下へ。この円筒状の空間の最下層、床面へと突き立っていたのは、刃である。

そこかしこにヒビが入り、ところどころが脱落した、されど途方もない霊気を内包した巨大な刃。尖塔よりもなお高い、山脈のごとき巨大な武装であった。

そいつがすれ違いざま魔法わたしを断ち切っていかなかったのは、単にそれが刃物だったからであろう。素数わたしことはできぬ故に。だがそれだけ。その巨大すぎる霊気をほんの少し叩きつけるだけで、魔法わたしは滅ぶであろう。そう感じさせる力を、その構造体は備えていた。

あれには見覚えがあった。

―――鋼の戦神マシンヘッドの神器。


  ◇


神殿の底、直径数百メートルの空間。

何十という闇の戦士たちを挟んだ向こう側、神器を召喚するための祭壇を目指して二人の死者は刃を振るっていた。

女剣士の眼前には闇妖精ダークエルフの神官戦士。手には大鎌。魔力のきらめきを帯びた刃の切っ先が振り下ろされる先は、女剣士の首の断面。

唯一甲冑に覆われていないそこへ正確に振り下ろされた刃はしかし、した。魔法そのものである死者と言えども魔力を帯びた刃では死ぬ。にもかかわらずである。女剣士が半神より引き出した加護により阻止されたのだった。素数は割れぬ。故に刃は通らぬ。太陽神や火神の神官が、神の権能たる陽光を召喚できるように、女剣士は星霊の権能たる刃への不死性を帯びたのである。

実にありがたい加護だった。魔力を帯びた武器とは、その大半が刃物である。この加護は、女剣士が事実上白兵戦では不死を得たことと等しい。

隣では、女戦士が恐るべき身軽さを披露していた。首なし騎士デュラハンとはもとより俊敏なものだが、彼女のそれは次元が違う。あまりの速さに熟練の敵勢が追い付けぬのである。更に、踊る剣リビングソードにもそちらを援護するよう命じてあった。

この乱戦では魔法は使えぬ。ならば死者たちが圧倒的に優位であった。

そして、彼女らの前方。祭壇のそばに立つ角持つ童女。女戦士の娘を依り代とする闇の神霊が突如、仰け反った。背後から刃を突き込まれたのである。半神の魔力によって運ばれた黒衣の少年の仕業であった。よくぞあのような真似を女戦士が許容したものだ、と女剣士は苦笑する。次の瞬間には童女は力を失い、その体を抱えた少年ともども姿を消失させた。あの半神によって退避させられたのであろう。斬りかかってくる敵勢の得物が刃物ばかりなのを確認した女剣士は攻撃をかわすのをやめ、印を切り呪句の詠唱に入った。

己を乱打する幾つもの刃を完全に無視し、完成させた術が、女剣士の掌へと顕現する。万物に宿る諸霊の助力を得て虚空より掴みだしたそれは、稲妻ライトニングボルトの秘術。それを、祭壇へと投射しようとして。

突如。何の脈絡もなく、祭壇の向こう側。そこにが、出現していた。

壁、なのだろう。そこかしこにヒビが入り、ところどころが脱落し、不可思議な蒼の金属でできており、そして尖塔のごとき巨大さ。そんなものが壁でないとすれば―――あれは、なんだ。

女剣士は、そいつを呆然と見上げた。

その物体は、武器だった。刃がある。柄がある。意図が理解できない不可思議な意匠がそこかしこにあったが、それが破壊と殺戮のために生み出された器物であることは明白であった。

彼女の概念に照らし合わせれば、それは剣。あるいは槍が、最も近いと言えるのだろう。だが、この巨大さ。こんなものを振るうとすれば、それは雲にも手が届くような巨人―――それも、あの丘巨人ヒル・ジャイアントですら凌駕するかのような、とてつもない化け物に違いあるまい。

そいつは、女剣士を。いや、この地下の巨大空洞に存在するすべての者を観察したのである。目など持たぬにもかかわらず。女剣士はそれを、研ぎ澄まされた剣士特有の勘で察知していた。

女剣士の直感が訴えていた。あれは、敵だと。

それは、正しかった。

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