さあ、何が出てくるでしょう(作者も考え中なう)

神殿の中空。

そこで、女神官は、追い詰められつつあった。無数のによる触手。空洞内をするそれに乗った見えざる何かが、彼女に触れようと襲い掛かって来たからである。恐るべき速さと数のそれを素手まほうで捌くので、彼女は手一杯であった。

そのひとつにでも触れることを許せば、彼女は即座に下の仲間たちと同じ運命をたどるであろう。すなわち浸食され、肉体を金属の彫像へと変えられるのである。神の洞察力によって、彼女はそれの正体を察していた。物質の根源よりもなお小さい、神器の眷属。揺らぎの中に潜み、瞬時に増殖し、物質を組み替える力を持つそれらは鋼の戦神マシンヘッドの血潮なのだ!!

本来は鋼の戦神マシンヘッドの傷を癒し、あるいは彼女らが工芸品を生み出す際に用いられるのであろう権能。攻撃ですらないのだ、これは。

幸いな事に、少年や生首たちへ向かう触手はない。女神官が最大の脅威と認識されている証であった。だが、それは彼女が逃げられないという事でもある。いや仲間を見捨て、自分だけならば逃げ切れるやもしれぬが。

「―――その選択肢はないのである」

せめて得意のでもぶつけてやりたいが、ここは地の底。討ち死にするしかあるまい。

星神に仕えし半神の命運は、風前の灯火であった。


  ◇


神殿内部の螺旋階段。内壁に沿ったそこを駆けあがる者たちの姿があった。

先頭には、童女を担いだ黒衣の少年。必死で走る彼の後方を追いかけてくるのは、闇の種族の戦士たち。神器の権能によって蘇った彼らが追撃してきたのである。幸いまだ距離は離れているが、人ひとり抱えている少年が追い付かれるのは時間の問題であった。

神器そのものを相手にするよりはマシとはいえ、これでは大して変わらないな、と少年は苦笑。

と、その頬を矢がかすめた。背後の敵から放たれたものである。反撃の術はない。

少年が死を覚悟した時だった。

「……ぉ……」

前方で待ち構えていたのは、銀髪の生首。そして彼女を咥え上げる猫の姿。

女戦士はを切った。

それは遥か地表、大気の霊へと届く。霊は女戦士の願いに応えた。この地の底まで援助を届かせたのである。解放された天蓋を通して吹き込んで来る暴風。それはたちまちのうちに闇の戦士どもを捕らえると、中空へと投げ出した。神殿内部の空洞へと。悲鳴を上げながら落下していく敵勢。恐らくそれすらも神器は蘇らせるのであろうが、しかし時間は稼ぐことができた。

真横を駆け抜けていった少年と目を合わせると、猫はその後へ続いた。女戦士の生首を引っ提げて。


  ◇


そこは途方もなく広大な空間であった。

闇の神霊。神器へと招き入れられた彼女に割り当てられた場所は、神器全体からすればごく小さなもの。にもかかわらず、そこに宿る力は途轍もない巨大さを誇っていた。その全てを彼女は利用できるのだ。本来はが快適に過ごせるように与えられた領域。されど、半神である闇の神霊にとってはそれ以上の利用価値がある。

「―――素晴らしい」

空間に浮かぶ無数のへと手を伸ばす。記されているのは、鋼の戦神マシンヘッドにとってはなんという事のない知識に過ぎぬ。彼女らにとっての軍機など触れられようはずもない。だがそれで十分だった。物質の根源たる"ひも"の秘密。空間と時間の連なりを断ち切る方法。極微の世界に潜む波を支配する技。無数に重なり合う世界の構造。

―――これにしよう。

あたりを付け、己の能力で扱える術を組み上げる。それはの魔法。異界より魔神デーモンを招くのにも似ている。だがそれより近く、されど途方もなく遠い、本来であれば決して手の届かぬ世界へと呪術的経路を開く。

神霊が神器より与えられた力と知識は、不可能を可能とする。

招き寄せるのは刺客。現在上空で防戦一方の敵を叩き潰せる、強壮なる異界のを呼び込み、ぶつけてくれよう。もちろん星神の轍は踏まぬ。術が解ければ自然と送還される者を選ぶ。

神器の内部に、朗々たる呪句が響き渡った。

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