第十一話 高地の王国
よくもこんな残酷な設定を考えるなこの作者(自分で書いてんだろ)
闇に包まれた世界だった。
そこは大地の奥底。入り組んだ空洞が広大な地下世界を生み出している。半ば異界にも等しい領域であった。
中でも特に奥まった部分。限りなく、地下に住まいし流血の女神の寝所に近い場所で、首を持たぬ女戦士は跪いていた。眼前の者に。御簾に隠れたあちら側。顔の見えぬ何者か。闇の者どもの貴人たる、主人に対して。
彼女は、手にした革袋を差し出す。
それは側仕えの者によって運ばれ、御簾の向こうに座る者へと手渡された。
しばし中身を検分する貴人。
「―――よくぞ、
貴人より発せられたのは恐ろしくしわがれた、女の声である。千年の重みを感じさせた。
対する女戦士はただ、首を垂れるのみ。
「よかろう。褒美をやらねばなるまいな。―――御簾を上げよ」
命に合わせ、上がっていく御簾。その先にいたのは、闇の法衣に身を包んだ黒髪の娘。まだ幼いその顔立ちに浮かんでいるのは、深き年輪。その瞳に宿るのは、流血への欲望。身から発するのは、恐るべき邪悪なる霊威。
そして、その両の側頭部から伸びるのは、ねじくれ曲がった、角。
闇の巫女たる娘。その肉体に宿る霊は、告げた。
「娘と会わせてやろう。ゆるりと過ごすがよい」
言い終え、力を失う巫女。しかしそれもほんのわずかな間。
身を起こし、周囲を見回し、そして眼前の女戦士―――首のない女を見た巫女は、幼さ相応の声を上げた。
「……母上!」
◇
―――どうして、こんなことになってしまったのだろう。
女戦士は、膝の間に抱きかかえた娘を見下ろしながら、そんなことを考えていた。
「母上。母上!」
無邪気に自分を慕ってくれている娘。生まれた時より狼と
自分で育てようなどと考えず、神殿にでも預けることができていれば、あるいは……
ありえない可能性を夢想する。女戦士も、その魂は人の類であった。好き好んで闇の種族に与する事などあり得ぬが、しかし娘が曲がりなりにも大切に扱われているのを見ると、心が揺らぎそうになる。
たとえその理由が、邪悪なる神霊の依り代としての価値ゆえとしても。
女戦士は娘の頭を優しく撫でた。この娘は、人肌の暖かさを知らぬ。冷え切った肉体を持つ
帰りたい。娘を育てたあの山野に。死んで以来、唯一と言っていい安らぎを得られたあの時期に。
しかし逃れることはできぬ。女戦士の急所。
そこで、唐突に思い至った。
あの追手たち。同族―――
か細い希望。
されど、他に手はない。
女戦士は、手の中であどけない笑みを浮かべる娘をじっと見つめ、そして一つの決意を固めた。
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