Q.女戦士も「くっ!殺せ!!」って言ったの?(A.言いました)
高地王国。
大陸南方、大河より西方へ進んだ先には、雄大な山脈が存在している。人の類の勢力圏が点在するこの大地では、太古の昔より地縁と血縁関係によって強固に結び付けられた者たちが王を頂き、闇の勢力と戦いを続けているのだった。
ここでは時折不可解な地形―――深き硝子の谷や、毒の光を放つ岩山など―――が散見されるが、中でもとりわけ奇妙なのは大空洞と呼ばれる洞窟であろう。山々の地下に広がる空洞は、無限とも思えるほどの奥行を持ち、都市すらも建造できようかという驚くべき広大さを誇る。いかなる自然の作用によって生まれたのかは謎であるが、それら地下空洞は未だその全貌が知られてはおらず、どころか神話の時代の遺跡や異界の怪物すら残っているとも言われている。一攫千金を夢見て潜り込む者は後を絶たぬ。死体になって地下深くに取り残される程度ならばまだよい方で、時折不浄なる怪物と化して地上の村々を襲ったり、あるいは闇の種族につかまって生贄とされるなどの血も凍るような事例は、この地に住まう者であれば一度ならず聞いたことがあろう。南方の海にまでつながっているこの空洞の住人どもには、地上に住まう人の類も手を焼いていた。さまよい出た古代の魔法生物1体のために、村落が壊滅する事すらあり得るのである。
今、この土地。深い闇を抱えた世界は、3名の来訪者を迎え入れようとしていた。
◇
断崖絶壁とも思える山々。木々すら生えぬそこから見下ろせる谷間には広大な森林が広がっている。ちょうど、谷間が森林限界である証左だった。岸壁に伸びているのは細い街道。やや広い場所に寄り添い、火にあたっているのは1組の男女である。
空は星がちらつき始めたころ。鍋には山菜や雑穀、干し肉が入れられ、コトコトと煮えてよい匂いが漂っている。
男女は黒衣の少年と、そして女神官である。
少年が器に料理をとりわけ、女神官に手渡したその時。
街道の淵、崖の下から手が伸びた。かと思えば、それはしっかりと大地を掴み、そして繋がっている肉体を引き上げた。
「おはよう」
「おはようございます」
「…ぅ……」
出て来た顔は女剣士。崖下の森林にて眠っていたのである。最近はずっと首を繋いだまま。
曲者を見失った一行は、進路を予測しこの地まで進んできた。とはいえ、予測が正しかったとしてもかなり引き離されているはずである。追いつける望みはおそらくあるまい。故に彼女らは、この地に根付いた人の類の勢力の助力を得ようと考えていた。とはいえここは大河より離れており、港町の威光も通じない。協力を求めてもうまくいくかどうか。手がかりは今のところ何もない。敵は巧妙に人里を避けていた。闇の勢力ならばわからぬが、まさか聞いて回るわけにもいくまい。
「―――八方ふさがり、か」
「……ぁ?」
「え?
友人の言葉に女神官は苦笑。実際、あの星霊がそこまで都合の良い存在であれば、この追跡行はとっくに終わっていただろう。だが、そうではない。半神と言えども全知全能というわけではないのだった。
手がかりが必要だった。何でもよい。敵の追跡に役立つ何かが。
そんな時だった。
―――OOOOOOOOOOONN!
響き渡ったのは、狼の遠吠え。
それに警戒心を強める一同。このような高地に狼が出るとは。女剣士はともかく人の身たる他の二人はかじられれば当然大問題だった。
見れば、より高所。月を背にした一匹の野獣が、そこには佇んでいた。
かとおもえばそいつは器用に崖を下り、一同の前へと降り立った。背に、何かを縛り付けられて。
「―――?」
顔を見合わせる一同。敵意は感じなかった。
女神官が頷き、女剣士が、ゆっくりとそいつに近寄っていく。
狼は、抵抗しなかった。背を女剣士へと向け、括り付けられたものを晒したのである。
女剣士は縄をほどき、問題の品物を手に取った。
手紙であった。
友人の手よりそれを受け取った女神官は、中身を検分。しばし読み上げると、仲間たちへ告げた。
「我々の待ち望んでいたものが来た。手がかりだ。出発するぞ、急げ」
にわかに慌ただしくなった。
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