第十話 いんたーみっしょん その4
しつこいようですがこのシリーズはアドリブです(でも積み重ねがものを言ってるよね)
女戦士は、小国の姫君として生まれた。
姫と言っても大したものではない。大国の小貴族程度の権勢しか持たぬ家。幾人もいる兄弟姉妹たちの末っ子だった彼女は、武の道へ進んだ。王家とは民を保護するからこそ王家たりうるのである。彼女自身、優れた師より教えを受け、技量を高めていった。
幾度の勝利を重ね、されど破綻はあっさりと訪れた。闇の軍勢によって国が滅んだのである。彼女も捕らえられ、斬首された。
そこからが地獄だった。
魔法使いによって魂魄を拷問された彼女。気力の全てを喪失した女戦士は、黄泉還らせられた。
人の類を殺した。村々を焼き払い、神殿を破壊し、城砦を攻め滅ぼした。まさしくその働きは悪鬼羅刹であったろう。だが逆らうなど彼女には考えられなかった。死が怖くない?それは死んだことがない者の妄言だ。急所たる生首を人質とされた彼女に逆らうという選択肢はなかった。己の臓物から造りだされた魔鎧で身を守り、愛馬のなれの果てである
だが。
そんな日々は、唐突に終わりを告げた。彼女を支配していた闇の者どもの首魁が滅んだからである。人の類の攻勢の結果だった。
残されたのは、化け物に成り果て、どころか魂魄に与えられた苦痛によって己の名すら忘れてしまった
人質となった首の行方は分からなかった。どこかに埋められていたらしく、結局見つからなかったからだった。あれがなければ自害すらできぬ。胴体を失えば、生まれ変わる事すらできずに未来永劫土の中で眠り続けるより他ない。
さまよい続ける彼女は、ある時、生きがいを見つけた。
山中で、捨てられた赤ん坊と出会ったのである。
不思議な赤子であった。信じがたい事に、狼によって育てられていたのだ。母狼が、自らの子らと等しく扱い、乳を与えていたのである。
両の側頭部よりねじ曲がった角を生やしたその女児は、しかし人の子であった。異形故に捨てられたのは容易に察せられた。
女戦士は、赤子を育てようと誓った。必要な物資を得るため誇りを捨て、山賊へと転職した。襲うのは決まって闇の者どもか、あるいは人の類であっても野盗など人の道を外れた者だけにしようと決めていたが。
子は逞しく育った。首のない女戦士を母と呼び、兄弟姉妹たる狼たちと共に山野を駆け巡り、そして精霊や死者たちと語らった。天性の魔法の素質があったのである。肉声を出せぬ女戦士の魂の声を、娘は聞き、言葉を覚えた。
幸せであった。
だが、それすらもひと時のもの。
過去を忘れていた頃。首が、掘り返された。行方知れずとなっていた女戦士の生首が、闇の者どもの手に落ちたのである。
それだけではない。闇の者どもは、女戦士が育てていた娘をも見つけ出した。優れた霊力を持つ娘を、闇の巫女とすべく連れ去ったのである。
女戦士は、再び奴隷の身に堕ちた。自らだけならば、今度こそ死を選んだかもしれぬ。だが、そうではない。自らがいなければ、誰がまだ幼い娘を守り、育てるというのか。
彼女は誓った。娘と、自らの自由を取り戻すと。そのためならば、再び悪鬼羅刹にもなろう。機会を待った。
そうして、彼女は生き続けて来たのだ。
求めるものは、希望。
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