ちなみに鋼の戦神の本体は平均35mです(意外と小さい)

怪物への果敢な攻撃を行う女剣士はしかし、焦燥感に襲われていた。それはそうだ。敵との体格が違う。質量が違う。攻撃力が。防御力が。ありとあらゆる身体能力が異なりすぎる。50mの大巨人と比較すれば、首なし騎士デュラハンの持つ肉体的能力など塵芥にも等しい。それでも目を潰せばなんとか、と思って敵の肩までは駆け上がったが、眼前で通せんぼをするのは丘巨人ヒル・ジャイアントの左掌。一本一本がまるで神殿の巨大な柱を思わせる指は、ごつごつとしてまるで岩石。いかな女剣士の剛力でも叩き切れるとは思えぬ。そして掌。城壁もかくやという分厚さと巨大さ。これを乗り越えて敵の目に刃を突き入れるのは不可能であろう。

どころか、それは女剣士に迫った。来た道を戻ろうとした彼女は、敵の右腕―――今昇って来た腕の肘から先が曲がり、肩口目指してきたのを目撃した。逃げ場はない。いや、死者は落下では死なぬ。飛び降りれば分からぬが、落下の最中に胴体にぶつかっただけでも死するであろう。あるいは着地したところを踏み潰されれば。それほどの巨体である。

戸惑う間にとうとう足をつままれた女剣士は、握りつぶされるのを覚悟した。と。そこで、怪物は彼女を振り回す。いや、視界の隅に入ったを見て、驚いてそちらを向いたのだった。その勢いで、女剣士は生まれて初めて。今日の行程。この巨人に至るまで、抜けて来た森の上空を何百メートル、いや、1キロ以上の長き距離を飛翔するに至ったのである。大地は魔法の武器ではないから、死にはすまいが。

女剣士は、南天より飛翔してくる物体に気付いた。東へと投げ飛ばされた自身とちょうど直交するのそれに、女剣士は覚えがあった。そう。あの日の合戦。骸竜ドラゴンゾンビィを屠ったあの礫と!!

大きさこそかなり小さいものの、以前が投じたそれと瓜二つな石礫は、閃光の尾を引きながら丘巨人ヒル・ジャイアントの腿へと命中。その全運動エネルギーを、衝撃と熱エネルギーへ変換しながら砕け散った。


―――GUOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?


響き渡る、怪物の絶叫。砕け散る肉片。大きな損傷。敵の脚を潰したのであった。

倒れ込んでいく、丘巨人ヒル・ジャイアント。まるで土砂崩れのような、地形そのものが破壊されていく光景にも見える。巨人殺しジャイアント・スレイヤーが成し遂げられた瞬間であった。


  ◇


―――うまく、行った。

女神官は、安堵のため息をついた。

行使した秘術の名は隕石招来メテオストライク。星界より岩塊を召喚、投射する大魔術である。かつてが用いたそれと原理的には同じだが、彼女が自らの霊力のみを用い、まるで呼吸するかのように自然に行使したのに対して、人間としての枠に縛られた女神官はあくまでも秘術として、万物に宿る諸霊の助力を得ながら行使したのであった。

狙ったのは丘巨人の右腿。左に当てれば少年の方に倒れ込む危険があったし、前に倒れ込まれれば女神官が巻き込まれかねなかったが、どうやらうまくいった。少年も命からがら、敵のそばから離脱したのが見える。大きな損傷を受けた敵巨人はもう歩けまい。生命を奪うほどの礫は女神官の技量でも召喚できなかった。彼女らの能力の限界を考えればこれがベストであろう。

馬首を巡らせ、少年へと駆け寄らせる。女神官は手を伸ばし、転びかけた彼を馬上へ引き上げた。

「お見事でした」

「君もな」

互いをたたえ合う黒衣の少年と女神官。

彼女らは、来た道を戻り始めた。女剣士を回収する方向へと。

距離を取り、再び隕石招来メテオストライクを行使すれば、いかな神代の巨人であろうとも死するであろう。放置して万一回復されればもはや打倒の機会はない。確実に息の根を止めておく必要があった。幸い行使のための霊力だけはほぼ無尽蔵にある。

そして、あの曲者。彼女にはもう追い付けない。馬を2頭失ってしまった。策を考えねば。

女神官は、馬を急がせた。

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