というわけでまだまだ続くのであるよ(あるよ)
満天の星空が照らす市街地。その中心からやや北側に、星神の神殿はあった。
幾つもの巨大な木造建築は中の天井が高い。床は敷き詰められた自然石が参拝者によってすり減っており、場合に応じて衝立で区切られることもある。
だが、それらの空間は神殿の大きな面積こそ占めるものの、中枢ではない。
屋上に設けられた天文台。そして、地上及び地下に設けられた幾つもの書庫や保管庫こそが、星神の神殿における重要な場所であった。
保存されている書物の大半は石板か粘土板。あるいは木簡である。特に天体の運行を記した石板や粘土板は、よほど重要なものでない限りはある程度の量が溜まると、街の西側に広がる森林の中に設けられた土地へ埋められる。保管スペースが足りなくなるからである。これらは必要に応じて掘り出され、参照されるのだった。
今、それらの書庫の中でも最も重要な一画。異界の神々に関する魔導書が封印されし小さな建物が、曲者の手によって暴かれようとしていた。
◇
日の光も最小限にしか差し込まぬ書庫。
小さなそこは、普段三重にも鍵がかけられ、それぞれの予備は水神の神殿の長がもっているという、星神の神殿においても特異な建物である。内部の管理も水神の神官と合同で行われる。ごく限られた賢者や神官を除けば、その蔵書を読んだのは女神官のみ。幼少期、彼女が鍵をこっそり外していたのは明らかにされていたが、双方の神殿の長の意向によって黙認されていたためである。彼女が星霊の化身であることが分かっていたからだった。とはいえそんな例外を除けば、許しを得ずにここへ立ち入った者はいない。
今日までは。
不法に聖域へ押し入った強奪者は、手にした革袋へ、片っ端から蔵書を放り込んで行った。大半が石板や粘土板である。すぐさま容量を超えるであろうと思われるそれはしかし、一向に袋が一杯になる様子はない。魔法の品。それも真に力ある魔導の器であった。中に無限の品物が収蔵できる秘宝の類である。
小さいとはいえ書庫一杯に存在していた禁書・魔導書の類を強奪し終えた曲者は、入り口から出ようとしたところで、番兵と出くわした。外から扉が開かれたからである。
「―――ど、泥棒だあああああああああ!」
番兵役の
血を吹き出しながら倒れ込む
◇
「やれやれ、挨拶に来るのが最後になってしまったな」
「……ぁ…」
「まぁ、ね」
日も沈みつつある頃、星神の神殿へと訪れたのは三人の男女。女神官、女剣士、そして黒衣の少年であった。
女剣士は直射日光に参っていたので先に神殿へ戻ってもよかったのだが、ついてきたのである。彼女も勉学を星神の神殿で行った身だからだった。それ以外にも、幼少期に女神官に付き合って禁断の魔導書が封じられた書庫へ忍び込んだこともある。あの時は酷い目に遭った。
木を組んで作られた門を潜り、案内された先へ入ろうとした矢先。
「ど、泥棒だあああああああ!」
絶叫が響く。封じられた書庫があるあたりから。
「!?」
即座に腰のものへ手を伸ばす女剣士と少年。今日は街中という事もあり平服である。女剣士などは武装も細剣と
女神官を庇う位置に立った両名の前方、建物の合間から、疾走する曲者の姿が現れた。
そいつは、驚くべき身軽さを発揮した。左右の壁面を何度も蹴飛ばして足場とし、立ちふさがろうとした両名の頭上を跳躍していったのである。身軽さが身上の少年ですら真似できるかどうか。
すぐさま、三人は曲者の追跡を開始した。
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