新たなる敵あらわる(困った時のパターン)
夕闇に包まれつつある市街を、曲者は走る。右手には血を滴らせる刃。左手には革袋をぶら下げながら。
道路は家路を急ぐ者たちが多い。いかに安全な都市と言えども、宵闇を好む人の類はおらぬからだった。彼らも曲者の姿を見ればギョッとして道を開ける。ありがたかった。
だが。
騒ぎを聞きつけたか、前方より衛士たち。橋ごとの番所に詰めている者であろう。この都市の治安がよい理由であった。
「とまれ!」
立ちふさがる二人の武装は
跳躍。手近な家屋の屋根に右手をひっかけ、更に飛び上がり、屋根の上へ。衛士たちに追撃はできぬ。
しかし。
後方から追ってくるのは二つ。いや三つの人影。神殿からずっとついてくる。
ひとりは黒衣。隣の家屋の並びを疾走しながらピタリとついてくる。ちらりと見た限りではあどけない顔立ちだが、しかしその足腰の安定感と身軽さは侮りがたい。腰の二本も伊達ではなかろう。
もう一人は女。長身で凛とした、どこか青ざめた麗人である。こちらも腰に剣。少年ほどの身軽さはないが、驚異的な身体能力で跳躍しながら後ろを追ってくる。
三人目。なんと飛翔している。法衣を纏った女に見えるが、高位の魔法使いであろう。中々に珍しい。これは移動しながらでは術は使えぬだろうから後でもよい。
家々が密集してきた。さあ。どうする?
◇
神殿の書庫を狙った曲者を追跡してもう大分経つ。敵はかなりの身軽さを発揮し、家々の屋根伝いに逃げていく。目指すは港であろう。
女剣士は考える。
走りながらでは魔法は使えぬ。女神官も条件は同じであろう。あの半神に出陣願えばわからぬが、たかが盗人相手では仰々しすぎる。
一計を案じ、そして挟み撃ちが妥当であろうと結論する。女剣士は腰より逆手に抜いた
敵手よりかなり前の屋根へと突き刺さったそれは自ら浮き上がると、曲者へ襲い掛かる。
曲者もこれには面食らったらしい。右手の凶刃で受け止めるので精一杯。そこへ女剣士が駆け付け、細剣を抜き放った。
強烈な刺突を、敵は避けた。のみならず、
女剣士の首へ。
魔力を帯びた凶刃。回避は間に合わぬ。本来なら。
故に、女剣士は自ら首を切断した。
曲者が再びギョッとする。それはそうだ。刎ねるより先に敵の首が飛んだのだから!
刃をやり過ごした女剣士は、勢いに任せて飛んでいこうとする自らの生首を確保。掴んだ髪の毛で引き戻し、乱暴に胴体へと当てながらバックステップした。人目が多すぎる。
女剣士の首を刎ねた敵は再度振り返り、
足場の悪さ故にバランスを崩し、落下していく
脱落させた敵を無視し、曲者は走り去った。
◇
女剣士が見事にしてやられたのを見て、少年は気を引き締めた。さすがは神殿へ押し入っただけのことはある。
曲者の斜め後方より跳躍。空中で抜剣。切りかかった。
敵手は振り返りつつ一の太刀をかわし、少年の胴体を狙って反撃。
腰より抜かれた銀の小剣が、曲者の一撃を防いだ。
そのままぶつかり合った両者は、もみ合いながら屋根の上を転がっていく。勢い余った彼らは、そのまま先の水堀へ落下。
水底で激しく争い合う、少年と曲者。されど、その勝負は曲者の勝利に終わった。少年の息が続かなかったからである。
驚くべき息の長さで少年を下した曲者は浮上。陸に上がると、そのまま駆けだした。
◇
魔法で飛翔する女神官は敵追撃を中止した。少年が堀から浮かんでこないからである。代わりに、道中で回収してきた仲間に敵追撃の任を与えた。
すなわち
少年を救いに水底へ潜った女神官に代わり、
◇
前方に見えるのは港。衛士たちが駆け付けるのも間に合うまい。待たせている小舟に乗り込みさえすれば後は逃げ切れる。だが、背後を執拗に追ってくるのは先ほどの
そこまで思考した曲者は、速度を上げようとした。しかし人通りが多い。邪魔である。一方で、曲者を追撃する
背後まで迫った
曲者の頭部に直撃。まさしくその瞬間、頭巾に覆われたそこが消失する。
驚愕の表情を浮かべる少女武者の魂魄。一瞬の隙。
そこへ、渾身の一撃。
恐るべき剛力で繰り出された凶刃により、
敵を退けた曲者。その首より下は、速やかに港へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます