親とはフリーダムなもの(理解がありすぎる両親)
よりにもよって、家に帰って最初にやることが自分の訃報だとは……
女剣士の内心である。
広大な敷地であった。
道場は壁がなく天井のみが広がる構造。必要ならば立簾や衝立で隠す。床に砂利が敷かれた区画と地肌の部分とに分かれている。そこかしこに水路が引かれ、汗をかいた剣士たちは手桶で水浴びに興じれるという涼しげな構造である。訓練に勤しむ彼らは、腰を布で覆っているほかは男女問わずほぼ裸身。服は貴重であるからだった。誰しも汗ばむ服で家路にはつきたくない。
そのような光景が普段であれば覗ける、敷地の一角にその家屋はあった。
床は一段高くなったところに黒い自然石を敷き詰めた構造である。長年の歳月ですり減ってはいるものの、星神の神殿のそれほどではなくまだ凸凹した部分も残っている。住人は履物をしてこの床の上を行き交い、寝台で眠り、座る時は藁を編んで作った敷物を使うのだった。外部からの視線の遮断は主に簾が用いられるが、今はそれに加えて幾つもの衝立で区切られた区画が出来上がっていた。
今、女神官と並んで敷物に座っている女剣士の眼前には、一組の男女が腰かけていた。
身なりのよい彼らこそが女剣士の両親である。
男の方は厳めしい顔つき。小柄だが衰えのない体格である。
女の方は、金髪で柔和な顔立ち。しかし彼女は魔法使い崩れであり、かつては闇の者を狩る凄腕の戦士でもあったという。
「―――。ふむ。見せてもらえるか」
「……ぁ…」
一通り事情を話し終わった後。母は普通に女剣士の言葉を聞いていたが、父は魔法の心得がないため、女神官が通訳している。
促された女剣士は、五体満足な自らの首を両手で支え、そして
外れた首を、父へと手渡す。
受け取った父は、真顔。
「―――相手は仕留めたのだな?」
「……ぅ……」
通訳する女神官。
「よくやった。ならば問題ない」
ないのか!?
女剣士の心の叫びである。
「戦えば手足のひとつふたつ飛ぶものだ。お前の場合はたまたまそれが首だっただけだ。生きているのであればそれでよい。他にも武勲はないのか?」
「………ぁ……ぉ」
またも通訳する女神官。
「おお。素晴らしい。その体で何百という闇の者どもを殺したか!はっはっは。これは愉快」
「あの、他にも、
女剣士たちの後ろに座っていた黒衣の少年が、その時の話を語った。
「うむ。誇りに思うぞ。娘よ。
とはいえ、
「…ぁ……」
「分かっている。お前に家督を継がせてやるわけにはいかなくなったが、しかしお前は私たちの誇りだ。いつでも帰ってきてよい」
「……ぉ!」
「うむ、うむ」
隣では母までもが頷いていた。我が両親ながらなんという一家であろうか。
やはり女剣士の内心である。
やがて両親は、女神官、および少年へと向き直った。
「このたびは、無事に娘を連れ帰って来てくれて感謝のしようもございませぬ」
深々と礼をする夫妻である。
……無事?
くどいようだが女剣士の内心であった。
一通りの報告を終え、言葉を交わし、魔法で首を繋ぎ直すところを実演し、もっと身に着けた魔法を見せろと母に言われ、そして寝室で眠るため、女剣士は実家を辞した。
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