いつもの星神クオリティ(さすが)
驚くべき美貌を備えた首のない女は、水面上へ張り出した床へと腰かけた。横に自らの首を置いて。
女剣士も、マントを畳み、帯剣を置き、甲冑を外し、そして着衣を脱いだ。
自らも、美貌を誇る首のない女―――女騎士の横へ腰かけ、そして隣に自らの首を置く。相手の方へ向けて。
生まれて初めて見る、同族。
女剣士は彼女の事を知っていた。時折女神官のもとを訪れていた、旅の死霊術師師弟の片割れ。何度か稽古をつけてもらったこともある。素晴らしい腕前だった。ただ、昔見た時は首が繋がっていたと思ったが。
「……ぁ……」
「…ぉ……」
「………ぅ…ぁ」
「……ぉ」
どちらからともなく語り始めた、互いの身の上話。
女剣士は相手の言葉を真摯に受け止め、そして女騎士も、女剣士の話を優しく受け止めていた。
やがて。
女剣士の肢体を、女騎士は優しく抱きしめた。
女剣士の首。その眼から、とめどなく涙があふれ出た。
◇
死者の魂と語らい、予言をし、弔い、時に現世へ呼び戻す。霊と魂を扱う魔法使いの一派。その中でも、とりわけ珍しい部類に入るのが、東方より来たというこのフードの死霊術師である。修行の旅を続ける彼の目的は、完全に制御された"死"を迎えることで、より高次の生命へと自らの魂を転生させることだという。
かつて、彼は、弟子と共に修行の旅を続ける道中、大河を流されて来た赤子を救った。
「―――それが、私だと?」
「ああ。珠のような赤ん坊だったよ。食事もやったしおしめも替えた。俺たち二人でな。骸骨兵にあやさせたこともある。まぁそういう環境で育てるのは我ながらどうかと思って、人里を目指した。育ててくれる里者を探しにな」
そして、彼らは襲われた。赤子を狙う者ども。暗黒神の信徒たちに。
壮絶な死闘を繰り広げ、何とか港町までたどり着いた死霊術師は、赤子を水の神殿へと預けた。そこならば邪教徒どもも手出しできなかろうと。
間違いだった。
「お前さんを狙ってたのは、当時この街で評議員をしていた賢者だ。奴はとんでもないことを狙ってた。
―――太陽の、破壊」
男の発言は、衝撃的なものだった。それは世界を滅ぼす。いや、人の類をこの地上から抹消するのと同義だから。
だが。どうやって?太陽とはすなわち神そのもの。それを破壊するなど人の手に余る。
そんな女神官の疑問に対し、死霊術師は、質問で返した。
「星神の神獣って知ってるか?」
もちろん、女神官はその名を知っていた。神話の怪物。星神が過ちによって世界へと招き入れてしまった、異界の魔獣神。
「件の賢者は、神獣を復活させた。お前さんの―――赤子の魂に眠る鍵を用いて」
「!?」
「幸い、神獣は滅んだ。奴の体に突き刺さっていた
「……では」
「神獣について知ってるなら、それを解き放つ方法も知っているだろう?」
「―――星神か、星霊の持つ鍵を使うこと……」
「ご明察。
つまりお前さんは星霊だ。まぁ星神本人という可能性も絶対に否定できるってわけじゃないが。まさか神そのものが降りてくるわけもあるまい」
非常に論理的で明快な結論だった。疑う余地などあるはずもない。
ただ一点、女神官は聞き咎めた。聞き咎めたが、話の流れを切らずに問い返せる機会を待った。
男は続ける。
「断っておくが、もし最初から知ってたら、星神の神殿に預けてたよ。けどお前さんの正体を知ったのは、ここに預けた後の事だ」
「……はい」
「ま、そんなこともあったんで気になってな。時々は顔を見に来てたってわけだ。
俺が話すべきことはこんなもんかね?」
そして、ローブの死霊術師は、話を終えた。
女神官が疑問を口にしたのは、大分経ってからのこと。
「……ひとつ、聞かせて欲しい」
「うん?」
「……
「ああ。うちの弟子が、神器の欠片を使ってな」
「その方は、近くに?」
「いる。というかお前さんも知ってる人間だよ。ここの離れに泊まってる。それがどうした?」
ローブの死霊術師は、かすかな疑念を抱いた。その質問は予想の範疇ではあったが、彼女にとって気になる事はもっと他にあるのではないか?
そんな男の内心など気にも留めず、女神官は言葉を連ねた。
「―――そうか。そうだったか。何百年か地上をさまよい、探し歩く覚悟であったが。素晴らしい。手がかりがこんな近くにあったとは」
「おい?」
「感謝する。
「―――なっ」
「これで神器の欠片を持ち帰れる。この重苦しい肉体を脱ぎ捨て、星界へと帰還できる。本当に感謝する」
死霊術師は、眼前の女神官に恐怖を感じていた。なんだ。あの冷たい瞳はなんだ。本当に、さっきまでの彼女と同一人物なのか。
死霊術師は、後ずさった。
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