この人ローフル・グッドです。秩序・善ですよ!(ほんとだよ)
素晴らしい!!
女神官でもある者は、内心で喝采を上げていた。
何百年かかるか分からぬ探索の旅のはずが、手がかりが目の前に現れたというのだ。これを喜ばずにいられるか!驚きのあまり目が覚めた。
さあ。早く勤めを果たそう。仕事を終え、懐かしき
しかしそうか。前の時は
む?少年よ。どうした。
急がねば。また眠気に襲われてはたまらぬ。
さあ。そこをどくのだ。
◇
あの時と同じだ。
聖堂の中。黙って死霊術師の話を聞いていた黒衣の少年は、主たる女神官の行く手を阻むべく立ちふさがった。
彼女は聞き捨てならないことを言った。帰還すると。肉体を脱ぎ捨てて行くと。
それが彼女の意志であるなら止められない。だが。
「お待ちください。肉体を脱ぎ捨てる、とはつまり、亡くなられるということですか?」
「うむ。その通りである。世話になった。いや、ちと気が早いか。だが神器の欠片を手にすれば、遠からずそうなる」
口調が違う。態度が違う。こちらを見る目つきが明らかに違う。なのに、それは間違いなく女神官。彼女の異なる側面が、今顔を出しているのだと、少年にはわけもなく理解できた。
「何故―――」
「
それに、
そこに、死霊術師が割って入って来た。
「待て。それなら話が変わってくる。うちの弟子は、神器に宿った
「―――ふむ。それは困った。任を果たせぬ。ならば、直接交渉するとしよう」
そして、彼女は消えた。忽然と。
「な―――!?」
彼は、その場に残された他の人間たちへ問うた。女神官の行き先を。
「こっちだ!」
駆けだした死霊術師。少年もあとに続いた。
◇
「失礼する」
その女が現れたのは、女騎士が体を拭き、着衣を身に着け、武装し、首を抱えて寝室から出て来た後の事。今まさに彼女が会いに行こうとしていた人物が、背から翼を伸ばし、そこに立っていた。
唐突に。何の脈絡もなく、そこへ出現していたのである。
女神官が。いや、女神官でもある半神が。
「……ぁ………」
「久しぶりであるな。あなたが、
言い終え、横を抜けようとする半神。反射的にそれを引き留めようとした女騎士の手が、弾かれた。どころか、彼女の全身が弾き飛ばされたのである。
見えざる聖威の力であった。
魂魄に大きな打撃を受け、大地へと投げ出される女騎士。
それを無視し、前方の寝室へ入ろうとした半神の前に立ちふさがった者がいた。
首のない、裸身を晒した女。
女剣士だった。
◇
なんだ。どうしてまたああなっている!?
女剣士は、眼前に立ちはだかる翼持つ女に気圧されていた。
あの時と同じ。闇の軍勢をまるで虫けらのように
「ふむ。すまんがどいてくれぬか。その奥にいる神と話があるのだ」
分からない。何を言っているのかわからないが、何故そのひとを―――女騎士を傷つけた!?
「ああ。すまぬな。軽くぶつかっただけなのであるが。傷つける気など毛頭ない。まぁ些細な事故である。許してくれ」
事故?些細―――!?
頭に、血が上る。
知らず、下げていた剣の柄へ、手が伸びた。ただの鋼で出来た、大剣への。
「ふむ。それで気が済むのであれば幾らでも斬ってくれて構わん。だが手短に頼む」
女は―――女神官の顔をした何かは、心底どうでもいいように告げた。女剣士の手にした得物を、まったく脅威と見なしていない。どころか女剣士自身を敵と見ていない証左であった。
女剣士は思い出す。
かつて女神官が言っていたことを。自らの正体かもしれぬと言っていた神霊の事を。いかなる整数でも割り切れぬ素数という数を司る、半神の事を。
素数を割り切ることができるのは、1と、そして素数自身だけである、ということを。
女剣士は、神に祈った。
卓越した武とは、それ自体が魔法である。眼前の神へと捧げられた剣は、神自身の力を得た
鞘走り、神速の域に達して振り上げられた大剣は、女神官の翼。十三枚あるうちの、右から伸びる七枚を断ち切った。
納刀の音が、響く。
「―――
非礼を詫びよう。確かに
言い終えた半神。切り落とされた彼女の翼は、次の瞬間にはもとに戻っていた。同時に威圧感も失われていく。
「いつかそなたが真に死するときがくれば、星界へ参るがよい。神格を得られるよう推挙しよう」
言い終えると、女神官でもある半神は、崩れ落ちた。意識を失い倒れ込んだのである。
そして、精根尽き果てた女剣士も、また。
駆けつけて来た死霊術師と、そして黒衣の少年を視界の隅に入れつつ、彼女は意識を失った。
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