第七話 いんたーみっしょん その3
性に開放的すぎやしませんか(文明レベル考えろ)
「……ぁ………」
「え?体は大丈夫かって?ああ。元気だよ。むしろその点だけを見れば、まったく問題ないくらいかな」
「…ぅ……」
旅の途上。小脇に首を抱えた女剣士と、そして女神官との会話である。
闇の軍勢の戦いのあと、女神官と少年は様子を偵察に来た地母神の神官たちに発見され、村へと戻った。何が起きたのか村人たちや地母神の神官たちに尋ねられても分からないの一点張りで通した。実際わけがわからなかったのだが。
村の被害は軽微だった。死傷者が若干名。女神官たちを突破した騎兵どもの仕業だったが、村の者達はよく戦い、被害を最小限に抑えたようだった。
なんにせよ、強大な闇の軍勢が滅び、そして村の被害は踏み荒らされた田畑が少々と、死傷者が僅かという事もあり、女神官たちは英雄となった。家畜が潰され、酒が振舞われ、晩餐はちょっとした騒ぎになった。
数日しっかりと休んだ両名は、その間に痛んだ衣類や武具の補修を行った。女剣士の大剣と甲冑も、村の鍛冶師に頼んで可能な限りは修復している。彼は怪訝な顔をしたが、黙って修理してくれた。幸い補修に使う鉄はふんだんにあった。闇の軍勢が大量に残して行ったからである。この先何十年か、村が鉄で困ることはあるまい。
女剣士は考える。
友人は筋金入りの合理主義者だ。支障がないのであれば、翼が生えようが別によいと考える。そういう奴だ。実際野営の際は服を脱ぎ、翼にくるまって眠っている。暖かいらしい。問題は、それが本当に差しさわりがないのか、という点。原因も分からずいきなり生えて来たものである。それにあの力。本人は覚えていなかったが、闇の軍勢を苦も無く薙ぎ払い、隕石を召喚し、天から光の剣を振るったあの恐るべき魔力。助かるはずのない少年を癒した力。あれはいったい何なのか。分からない事だらけだ。
それこそ星神に聞いてみて欲しいところなのだが。
「―――勘弁してくれ。今、神と接触したら、私が私のままでいられる自信がない」
とのこと。
さすがに魂の危険を冒してまで神と接触しろとは女剣士も言えぬ。
となれば、手がかりとなりうるのはあと一つ。
「……ぅ……」
「そうだな。故郷の神殿の連中なら、何か知っているはずだ。私に水神の法衣を与えたのも。星神の神殿から教師を送り込んできたのも。封印された書庫への出入りを黙認していたのも。全部が作為的なものだ」
となれば、やはり当初の目的を果たすしかなかった。
巡礼の旅を終わらせるのだ。とはいえそれはもうさほど難しくはない。予定の行程は終え、現在は復路にいるからだった。
道々で巡礼者としての役目を果たしながら故郷へ帰る。―――大河へと。水神と星神。二つの神殿に支配された港町へと。
また、ひとつ目的が増えた。
「それにしても。これである意味お揃いかな?」
「……ぉ?」
「ほら。君は首がないが、私は翼が生えてる。どっちも、そのままじゃ人前に出られない」
「……ぁ……」
「そうか。そういってもらえると嬉しいよ。
魔法の修業はどうだい。そろそろ、
「……ぉ…」
「そうか。よかった。街に着くころには大丈夫だな。ご両親を驚かせてやるといい」
「…ぁ」
「そうだな。驚かせすぎて、心臓が止まらぬように気を付けねば」
◇
空が明るみ始めたころ、森にて。
女神官は、今にも就寝しようとしている少年を呼んだ。
「はい。なんですか」
「寒いだろう。一緒にくるまるか?」
「ご冗談を。ご婦人が、夫でもない男と肌を重ねちゃ駄目でしょう」
女神官は、一糸まとわぬ姿に、背からは巨大な翼を十三枚、伸ばし、地面に座っていた。それの意味するところが分からぬほど、少年も初心ではない。
少年は苦笑して戻ろうとするが、女神官の言葉で足を止めた。
「―――冗談じゃないと言ったら?」
「……え?」
「人肌が恋しい」
「―――なら、剣士様となら」
「私と彼女は相思相愛だ。それは間違いない。けれど、彼女は土の下で寝る。私は土の上。
―――頼む。怖いんだ。この翼が。私の体が。魂の奥底に眠っている誰かが。軽蔑してくれていい」
少年は、女神官の願いに応えた。
彼女の翼は、とてもとても暖かかった。
「―――神官様」
「なんだい」
「あなたほど博識な方が、その翼の正体に見当もつかないのですか?」
「―――正直言うと、ひとつ心当たりがある」
「それは」
「13だ」
「え?」
「13という数を司る半神が存在するんだよ。星神の眷属でね。けれど、嫌だろう?もし私が13だとすれば、私の真の名前が数字という事になってしまう。嫌過ぎる」
「それは―――」
「あの一件以来、神に接触したことはない。だが、今なら水神の声を聞くことはできるかもしれないな。13は星神の使者でもあった。他の神と言葉を交わすこともできるはずだ。けれど、それは私が求めていた信仰の果ての形じゃない」
「―――」
「神殿の連中め。もし知っていてやったなら残酷なことをする。生まれる前から仕えるべき神が決まってたんだ。それならなんで最初から星神の神殿で育ててくれなかった」
「……駄目なんですか?」
「うん?」
「前世が星神の使徒でもいいじゃないですか。今生では水神に仕えればいいんですよ。主人を換えちゃ駄目だなんて決まり、あるんですか?」
「―――その発想はなかったな。素晴らしい。検討する価値はある」
そして、半神かもしれない女神官は、少年を抱きしめた。
「ありがとう」
◇
妙につやつやしてるな。
それが寝起き、体を洗いに行く前に友人を見た女剣士の感想である。
ふむ。やっとくっついたか。どっちから誘ったのだろう。少年は奥手だからなあ。めでたい。ついてきた時から下心丸見えだったし。
もちろん、自分は友人を独り占めする気などさらさらない。皆で共有すればよいのだ。元々故郷に戻れば、女神官も女剣士も見合いをして婿を見繕って子を成していたはずである。相手が早く見つかっただけとも言えた。女神官が誰に対して城門を開こうがそれは彼女の自由である。女剣士に対しても開くのであれば何の問題もない。うむ。というか自分も女神官の体を早く慰めてやりたいが、その前に己の回春を果たすのが先である。だいぶ目標には近づいてきたのだが。それを成し遂げても、友人の抱き枕にはもう、自分ではなれない。この体では。冷たいだけならともかく、土の下で眠らねばならぬ。友人は小さいころから何かに抱き着いていなければ眠れなかった。この旅を始めた頃、己がまだ生きていた頃も抱き着かれて寝ていた。よい代役が出来た。役割分担だ。よかったよかった。
自分は陰ながら友人を支えていくとしよう。これからは三人でやっていくのだ。
―――うん?ああ、すまんな、お前もいたな。
女剣士は、腰にぶら下がった
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