貴重な生身の人間枠である黒衣の少年(貴重すぎる)

女神官が目を覚ました時、そこは見渡す限りの更地になっていた。

降り注ぐ朝日。地肌に寝かされていたのか。それもうつぶせに。横を見れば、ひとひとりがすっぽり横になって収まるほどの土饅頭。そして、反対に目をやれば―――

剣を抱いた少年が、地面に座り込んでいた。

「―――え?」

傷はない。着衣こそボロボロだが、黒衣の少年には傷一つ見当たらないように見えた。服の裂け目。矢が突き立ったはずの部分にはきれいな皮膚。一体何がどうしたというのか?いや、闇の軍勢はどうした!?

飛び起きる。

「あ―――」

少年が、女神官の方へ顔を向けた。複雑な表情。

「おはよう―――ございます。神官様。―――神官様、ですよね?」

どこか、呆けたような口調で、彼は問うた。

何を馬鹿な。私がそれ以外の何に見えると。

そう、問い返そうとして、女神官は違和感に気付いた。

背中。なんだ。何かついている?いや。、だと?

陽光の下。

女神官の背から広がったのは、

「なんだ―――これは。なんで、私の背中に、こんなもの、が……」

呟いた女神官。彼女へ、従者たることを己に課した少年は、答えた。

「覚えてらっしゃらないんですか?オレが矢に射抜かれた後。神官様が、立ち上がって、翼を広げて、そして奴らを消し飛ばして―――」

言い終えた彼は、女神官を抱きしめた。

「怖かった。オレ、怖かったんです。もう神官様が元には戻らないんじゃないかって。あの恐ろしい目。すべてを見下す冷たい瞳のまま、どこかへ飛び去ってしまうんじゃないかって……!」

「そうか。

……すまなかった。他の、皆は?」

「無事です。剣士様は、そこで眠っています。動かせないんでそのまま埋めました。踊る剣リビングソードは、修理すれば大丈夫だと」

「……よかった」

一体、何が起きたというのだろう。

少年を撫でてやる。落ち着くまで。

やがて、彼が離れると、女神官は立ち上がり、そして己の中に満ち溢れた力に驚いた。無限ともいえる活力。これならば魔法をいくら使ったところで疲労などすまい。

翼を撫でる。気持ち良い。神経が繋がっていた。だが、邪魔だろう。

分からないが、片づけ方は知っていた。術を詠唱すれば事足りる。

呪句を唱え、印を切り、万物に宿る諸霊へ助力を願い出る。

完成した魔法。形状変化シェイプ・チェンジの魔力によって、背へと翼が吸い込まれ、女神官の姿が元へと戻る。元の、人間の姿へと。

姿だけは。

陽光に照らされ始まった新たなる一日。しかしそれは、昨日までの日々では、ない。

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