女の子が化け物になって絶望してそれでも立ち上がるのが好きだからくっころ書いてます(まさに外道)
夜の森を疾走する女二人。
ひとまず敵を振り切ったとはいえ、
そんな彼女らを、斜め後方より追跡する人影があった。いや。人影?
それは、狼だった。毛むくじゃらの肉体を持ち、筋繊維は膨れ上がり、二本の足で走り、そして獣の頭部を持つそいつの名前は
奴の爪は魔力を帯び、そしてまた、銀か魔力を帯びた攻撃しか通用しない。女剣士の肉体をも切り裂くのだ。女神官に対してはどうかは実は不明である。女神官も爪牙に対しては実験したことはなかった。だがあの剛腕で殴られれば結果は同じ。
このままでは追いつかれよう。二人は覚悟を決め、そして女神官は呪句を唱えた。
女剣士が抜き放った剣に魔力の光が灯る。
迎え撃つ女剣士に対し、
変則的な敵の動きに女剣士が幻惑される。敵の一撃を剣で受けるので精一杯だった。
攻撃を防がれた
援護しようと秘術の詠唱を始めた女神官が、自らの背後よりの奇襲に耐え切ったのは、幸運だったとしか言いようがない。
「―――な!?」
吸血鬼の叫び。空中より蝙蝠から元の姿へと戻り、そして女神官へと突き立てた細剣が静止していた。
彼はバックステップすると油断なく身構えた。
◇
―――馬鹿な!魔力を帯びた刃が防がれただと!?
吸血鬼は驚愕していた。彼の手にしている細剣は、強力な貫通の魔力を備えていたからである。
防御の術を眼前の女神官が用いた形跡はない。一体どうやって防いだ!?
確かなのは、奴にこの剣が通用しないということだけ。ひょっとすれば何らかの制限があるやもしれぬが、確認している暇はない。
故に彼は距離を取ると、呪句を唱え印を切り始めた。
◇
―――まずい。
女神官の内心であった。
彼女には刃物こそ通用しないが、それを除くありとあらゆる攻撃が通用する。脆弱な人間の肉体にすぎないのだから当然の事だ。
やむを得ない。
彼女は星神への加護を願った。実際の所、敬意こそ抱いてはいるが信仰の対象ではないこの神が何故、自らに加護を与えるのか、女神官にはさっぱりだったが。
これが火神や太陽神であれば陽光を召喚できようが、彼女に加護を与えるのは星神。
その拳足に加護が宿り、
◇
吸血鬼は魔法の詠唱を中断し、細剣を身構えた。眼前の女神官が踏み込んできた
からである。
相手の拳を受け止めようとした刃は停止。ピクリともしない。そのまま内懐へと入り込んできた敵は、吸血鬼の足を踏み抜き、そして強烈な裏拳を顔面へ叩き込んだ。
武装を手放し後退する吸血鬼。敵は四肢そのものが
◇
―――強い。
女剣士が眼前の敵へ抱いた感想である。
こちらは完全武装だが、小脇に己の生首、片手に両手用の大剣という悪条件。対する
今必要なのは甲冑を叩き切る重き刃ではない。軽やかに敵を貫ける刃だ。
彼女の背を守る女神官は善戦しているようだが、敵はどうやら吸血鬼。女剣士を殺し、このような化け物にした憎き敵である。もっとも、この体のおかげで今まで生き延びてこれたわけだが。
こういう時、目が二組あるのは便利だ。前後を同時に確認できる。
女剣士は踏み込む。刃を大きく振るう。敵が後退し、立木を足場に跳躍。女剣士を飛び越える。
―――しまった!?
女剣士は追いすがった。
◇
―――行けるか。
女神官は敵手の両目に指を突き込む。武装した吸血鬼の身は甲冑に覆われている。狙うべきはむき身の部分。
―――片目だけか!
そのまま立て続けに攻め立てる。牙だけは警戒せねばならぬが、四肢を噛まれる心配はない。止めとばかりに抜き手を喉へ突き出し。
背後からの一撃。
―――これで実験できたわけか……
流れに逆らわず倒れ込み、転がる。致命傷ではないが、治癒の加護が必要だった。
そこに響き渡るのは朗々たる呪句。この隙に吸血鬼が詠唱を開始したのである。
対処が間に合わない!
◇
女剣士は、咄嗟に判断した。
あれには追い付けぬ。呪句の詠唱も止められぬ。ならば!
剣を逆手に構え、そして槍の要領で投じる。吸血鬼は咄嗟に回避。呪句が中断される。武器を手放してしまった。だが問題ない。敵が取り落とした細剣を拾い上げる。吸血鬼へ切りかかる。私自身の仇を討ってやる!!
◇
女神官は星神へ加護を願う。治癒の奇跡を。
星光の力で肉体が活性化し、負傷が癒える。後で癒病の加護も願わねばなるまい。
とはいえそれはあとでよい。問題は目先の敵である。女剣士はこちらに背を向けている。敵は双方ともその向う側。
秘術の詠唱。もうほとんど力が残っていない。これが最後の一撃。術が完成する。
女神官の掌が、閃光を放った。
◇
吸血鬼は女剣士の鋭い一撃をかわしながら後退する。彼の肉体は通常の武器を受け付けぬが、敵が手にしているのは彼自身の細剣。魔力を帯びている。対するこちらは徒手空拳。片目を潰され、足も痛めている。まずい。そこへ
隙に乗じて闇の魔力を用いる。変身の魔力。今使うのは蝙蝠ではない。狼へと変じる。
急な変化に
その時だった。後方の女神官。その掌が、閃光を発したのである。
―――ぐわああああああああ!?
残った視界が潰れる。体を蹴り飛ばされる。腹をさらけ出す。
身の毛のよだつような音が、心臓から響いた。
それが、吸血鬼の最期だった。
◇
敵首魁にとどめを刺した女剣士は、素早く刃を抜き放ち、そして残る
―――終わった。
女剣士は、自身の復讐を果たしたのだった。
振り返り、友人を見る。もう敵は死んだ。彼女を守る必要はない。手の中の刃を見る。魔力を帯びた、刃。
死の誘惑を振り払い、彼女は自分の剣を拾おうとして、再度、細剣を見た。
◇
敵を討った後、しばし呆然としていた友人の背。それを見て、女神官は恐怖に襲われた。友人が、発作的に自害するのではないかと。
結果的には杞憂だったが。
女神官は立ち上がり、友人の剣を拾い上げると、告げた。
「さあ。行こう」
「…ぉ……」
◇
朝日が昇る。人の類を優しく包み込み、そして守護する太陽が。
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