酷い目に遭わせた女の子にはちゃんと救いを用意しないと(救い???)

月光が照らす夜の森。

その中を流れる小川のほとりで、すやすやと寝息を立てている娘の姿があった。女神官である。

傍らに置かれているのは、美貌の生首。そして、その横で座り込んでいるのは甲冑をまとった麗人の胴体だった。

「吸血鬼は水を越えられない。ここは理想的な陣地だ。交代で休もう。朝まで寝かせてくれ」

とは女神官の言。

女剣士は、生首とは別、胴体に備わった霊的な視線で、傍らの友人を見た。

不思議な友達。水神の神殿で育てられたというのに、なぜか星神の声が聞こえるという。幼いころから星神の神殿から送り込まれて来た教師によって博物学を学び、その書庫にすら入り込んでは独学で秘術を修めた天才魔法使い。

彼女でなければ、己を救うことはできなかっただろう。いや、これを救えたというのであればだが。

己の体を見る。

首がない。もうこの時点でおかしいが、体は寒さも暑さも感じない。温度は分かるが。友人によれば苦痛も感じないのだという。あらゆる肉体的快楽も。今感じている虚脱感は生まれたばかりの死にぞこないアンデッドだからだそうで、すれば回復すると。

なんて、ひどい。

もう子も産めない。美味しいものを食べることも、体を動かす心地よさも。何もないのだ。それどころか人前に出れば、石もて追われるのだ。

死んでしまいたい。だが、死ぬことすらできないらしい。魔法でなければ己は傷つくことはないのだと。友人に、己の頭を砕くように頼んでも決して同意せぬだろう。帯びている剣はただの鋼。自害すらできない。

これから、どうしよう。

友人は、きっと親身になってくれるだろう。ひょっとしたら僧籍を捨てさえするやもしれぬ。そんなことはさせられない。だが何も言わずに立ち去る事もできない。敵が間近にいるのだ。己が、彼女を守らねば。

八方ふさがり。

やがて、朝日が昇る。

ああ。陽光がこんなに苦しいだなんて。

女剣士は、涙した。


  ◇


友人が涙を流す様子を、女神官はそっと見守っていた。彼女が涙を洗い流すまで待ってから、起き上がる。

「おはよう。交代しよう。大丈夫かい?」

「……ぁ……」

気丈な笑顔を浮かべる女剣士に、女神官は内心思う。

この意地っ張りめ。

とはいえ、己に何がしてやれるわけでもない。自分の頭の中に詰まっている知識に、首なし騎士デュラハンを人間へ戻す手段はないのだった。ええい、肝心な時に役に立たぬ。

「ああ。君の服は洗濯しておく。安心して眠ってくれ」

安心だと?凌辱され、首を刎ねられ、死にぞこないアンデッドとなり、そしてこれから土の下に埋まるのに安心も何もあるわけがなかろう。何を言っているのだこの口は!

「……ぉ……」

そして、女剣士は、土の下へ自ら埋まった。


  ◇


夕刻。

悪戦苦闘した末捕まえた小川の魚を焼きながら、女神官は待っていた。女剣士の目覚めを。

やがて、木々の下。土が盛り上がり、繊手が突き出した。

目覚めの時間だ。

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