第二部 星霊編 (主人公:女剣士・女神官)

第一話 女剣士、死す

これ第三部だと女武者とかになったりするのか?(冒頭で女の武人が首を刎ねられるのはもはやくっころの伝統)

「くっ!殺せ!!」

「ふん。興が削がれた。望み通り殺してやろう」

女剣士の凌辱された肉体。その首筋に刃が振り下ろされ、切断され―――

転がったのは、首。

―――ああ。首が落ちても意識はあるのか。

転がった彼女が目にしたのは、怨敵の爛々と輝く赤い目。そして、首を失い、一糸まとわぬ姿とされた、つい先ほどまで己のものだった肉体。

窓から降り注ぐ月光の下。

女剣士は、死んだ。


  ◇


「―――最悪だ」

月光が降り注ぐ石造りの室内。そこで、女神官は神へ祈った。

美しい娘である。腰まで届く黒髪。顔立ちは流麗であり、抜けるような白い肌。そしてその唇は深紅。身にまとっているのは上等な水神の法衣である。

彼女はを見回した。

じめじめしているのは許容しよう。隅の寝藁で寝ろというのもまあいいだろう。寒いのもこの際許容しよう。

だが、窓にも出入り口にもがはまっているのはいかがなものか。

そこは牢獄であった。

おかしい。昨夜自分と女剣士は確かに、村の宿に泊まったはずなのだが。どうしてこうなっている。

出された夕食を食べ、お腹がくちくなって眠気を誘い、ベッドに倒れ込んだところまでは覚えている。

あれか。何かに化かされでもしていたのか私は。いやいや。

とりあえず現状を把握せねば。相方も見当たらぬ。探さねばなるまい。

鉄格子から顔を出す。周囲を見回す。石造りの城。そういえば問題の村のそばには廃城があると聞いた覚えがあるが、それだろうか?

見回してみても誰もいない。

よし。

そこまで確認してのけた女神官は、鉄格子の入り口、鍵のかかったそこへ向けて呪句を唱え、そして印を切った。

力ある言葉が完成したその瞬間。

カチャ

万物の諸霊の助力によって、鍵が開いた。開錠アンロックの秘術である。

そろり、と出る。

見たところ、ここは半地下に設けられた牢屋なのだろう。鉄格子のはまった部屋がいくつもある。

そろり、そろり。足音を極力出さぬように気を付けながら歩く。神殿の書庫に忍び込むときよくやっていたのがまさかこんなところで役立つとは。

そぉっ、と発見した階段から、上を見る。

召使らしい服装の男が通り過ぎていくのが見えた。まあそれはいいのだが、(いやよくないが)、目が爛々と赤く輝いていた。あれは不浄の生命の証ではないか。

だいたい状況が読めて来た。

自分たちは生贄に捧げられたのだ。村の者達によって、この城の住人へ。一服盛られたのだろう。最悪である。

自分がまだ無事で、相方の女剣士の姿が見えない、ということは女剣士が奴らの晩餐に供されている可能性がある。急がねばなるまい。

友人としてのひいき目もあるが、女剣士は見目麗しい美貌の戦士である。中々堅物だがああいう友人は貴重だ。

さて。どこを探したものか。

思案し、ここは城主の居室を当たってみるべきであろうという結論に。

見つからぬようにはどう行けばいいだろうか。やはり魔法の力を借りるべきであろう。

力ある詠唱をこっそりと行い、そして秘術が発動。

透視シースルーの名を持つその魔法は、女神官に、城の壁や構造の向こうを見る力を与えた。

まさか神官が秘術を扱えるとは奴らも思うまい。

その代り肝心の水神の加護はてんでだめなのだ。どうしてだろうか。信仰心が足りないとは思えぬのだが。

階段を上っていく彼女。

その姿を、天井にぶら下がる蝙蝠は、じっと見つめていた。


  ◇


月光の差し込む塔の最上階。

高貴なるいでたちの吸血鬼ヴァンパイアは後悔していた。怒りに任せて、貴重な生娘を殺してしまった。死体の血はまずいのだ。

眼前に転がるのは、凌辱された首のない女体。その持ち主たる生首は、傍らに転がっている。

その時だった。

使い魔の蝙蝠の視界を介して、もう一人の娘。明日の晩餐にしようと思っていた女神官が逃げ出す様子が伝わったのである。

「ふむ……」

捕らえるのは簡単だが、それでは面白くない。

ふと、視界の隅に転がる生首が目に入った。

そうだ。面白い方法があるではないか。

彼は、配下に命じた。巡回ルートを変え、女神官を時間をかけてこちらへ誘導せよ、と。


  ◇


おかしい。

女神官は考える。

この城の内部の構造は概ね想像がつく。城というのは軍事施設だから、合理的に作られているものだ。

だが、やつらの巡回に、何やら作為を感じる。ひょっとしてこれは罠では……?

そうこうしているうちに、彼女は螺旋階段を上り、塔の上層にまでたどり着いた。

ええいままよ。女は度胸だ!

女神官は、眼前の扉を開けた。


  ◇


月光の照らす室内。石造りの塔の最上階、意外と広いその部屋は、驚くほど殺風景である。

部屋の中央に立っているのは一人の女。甲冑を身に着け、右手には剣をぶら下げている。顔立ちは美しい。黄金の髪が流れるようだった。

女神官は、彼女の事を知っていた。友人である、女剣士。そもそも彼女を探しにここへ来たのだ。

だが、女神官は声をかけることができなかった。

女剣士の唇がうごいた。

と。

彼女の胴体には、首がなかった。左腕が、女剣士の生首を抱えていたのである。

「……首なし騎士デュラハン―――!」

女神官は、友人の肉体だけではなく、魂すらもすでに辱められていたことを悟った。

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