第一部、完(打ち切りみたいだからやめい)
「やれやれ。まったく酷い目に遭ったぞ」
「……ぁ………」
道なき道。夜の森を行くのは、ローブの死霊術師と、甲冑にマント、小脇に首を抱え、剣を佩いた女騎士。
女騎士が背負っている背負子に乗っているのは、一抱えほどもある金属の断片。布で包まれたそれは
"彼女"は眠りに就いた。手を当てれば知識を吐き出しはするし、決して傷つけることもできなかったが、しかし明確な自我を持たなくなったのである。欠片が小さすぎて自意識を保てないのであろう、というのが死霊術師たちの推測だった。さほど外れてはおるまい。
あの戦いの後。駆けつけた衛士隊によって回収された彼らは―――女騎士を見て衛士たちはおののいてはいたが―――無事、陸まで戻ることができたのである。衛士隊の到着があと少し早ければ、神獣の落着に巻き込まれていたであろうから彼らが遅れたのは不幸中の幸いであった。船乗りたちもうまく波をやり過ごしていた。早めに退避して正解だったと言える。星霊の魂を持つ赤子の扱いは揉めた。星神の神殿が養育権を主張したのである。彼らの信奉する神の使徒であるから当然であろう。だが、先に赤子を預けられ、そして死者まで出た水神の神殿も譲らなかった。結局、当事者である死霊術師が間に入り、水神の神殿で養育し、星神の神殿で教育するという妥協案が取られる事となった。
大賢者の館や別荘を捜索した衛士隊は大量の呪文書を発見した。莫大なそれは驚くべき天文に関する知識や、秘術に関する記録で満ち溢れていた。接収された記録は星神の神殿預かりである。
そして神器の欠片。これの扱いも揉めたが、本人と会話し、管理を頼まれた女騎士に託される事となった。異界のとはいえ神の意向に背くだなんて!というわけだ。
これらのいきさつは当事者及び、港町上層部のみが知る秘事となった。神器の欠片や星霊などが悪しき者に知られればいかなる事態を招くか、今回の一件で思い知る事となったからである。
「……ぁ……」
「そうだな。あの子にはまた会いに行こう。神殿の連中も嫌とは言うまい」
「…ぅ……」
「え?でも、もう街はこりごりだ?」
「……ぁ……」
「分かった。次からは夜に入れて貰おうな」
夜の道を、ふたりは進む。
永遠の旅路を。
◇
「―――で、話ってなんだい?」
若作りの老婆の言葉。ここは星神の神殿。その天文台である。
屋上に設けられたそこへと、彼女は初老の神官から呼び出されたのだった。
「確認だ。神器は神獣が死ぬギリギリの威力で自爆するとのことだったな?」
「あんたも話を聞く場にいたじゃないのさ」
「重要なのだ。
それを踏まえた上で、あれを」
「うん?」
指された方角。
夜空へと老婆が目を凝らし、そして遠見の術をかけると―――
「……なんというか、剣というか、槍というか、よくわからんもんが星界に浮いてるように見えるんだけどさ。やだね、老眼かね」
「だったらよかったのだがな。神獣に刺さっていた刃は三本。だが、今回の一件で言葉を交わし得たのは一本」
「あー……オチが見えて来たよ。聞きたくないけど」
「私も言いたくはないが言わざるを得ない。
あれはおそらく、残る二本の神器だ」
「……なんてこったい。きれいさっぱり消し飛んでくれりゃいいのに」
「同感だ」
ふたりは、天を仰いだ。
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