タグ検索したところカクヨムで「快楽堕ち」のタグつけてるのくっころだけの模様(つけるなよ)
「おとーちゃん、なんか流れて来た」
「なんだなんだ……おぅ、水死人か?可哀想に。おい、ちょっくら人を呼んで来てくれ」
「はーい」
大河は交通の要衝である。
浅瀬の多さと波の穏やかさ故、竜骨を持たない平底構造の船が発達していた。釘を一切用いず、紐とタールを用いて組み立てられたこれらの船は縦帆が主流である。気まぐれに方向を変える風に対応するためだろう。1本のマストに大三角帆を備えた姿がよく見られた。
人の類が運行するこれらの船舶は、大河を横切る渡し船もあれば、河口から北上し、あるいは逆に南下していくものもある。日が高いうちに航行し、太陽が沈む前に近くの街や村落によって夜を明かす。夜間には様々な悪霊、怪物は愚か闇の種族の戦船まで出没するからである。
今宵も、そんな船の一隻が、村落の桟橋に停泊していた。
◇
「……ぅ」
まぶしい。
うすぼんやりとした視界。寝かされているのは藁を詰めただけの寝台。漂ってくるのはいい匂い。何を焼いているのだろう?
身を起こそうとして、鈍痛。そこかしこが引きつるようだが、特に背中は酷い。そういえば
死霊術師は飛び起きた。
粗末な家屋だった。土を積んで作ったのだろう。採光のためか、窓は高い場所へ何か所も設けられており、南側にある入り口は、扉代わりだろうか、外側に立すだれが立てかけてある。
家の中央、土の床に茣蓙を引いた上では、木枠に収まった小さな火鉢で大きな貝を焼いている男と、そしておくるみを抱いた女の子。
日によく焼けた彼は、目覚めた死霊術師に告げた。
「よぉ。お目覚めか。大丈夫かい?」
◇
「そうか、闇の者にやられたか。災難だったねぇ」
「ああ。本当に助かった。礼を言う」
死霊術師は、眼前の日に焼けた男―――船乗りと、その娘である女の子に対して深々と頭を下げた。
ここ、中州にある村落に流れ着いた死霊術師を見つけたのは、船の見回りに来ていた彼らである。この家は、村を訪れた船乗りたちのために提供される宿らしい。
死霊術師は、指にはめていた指輪を抜き取ると船乗りへ差し出した。ささやかな幸運をもたらす魔法の指輪。
「こんなものしかないが、感謝の気持ちだ」
「おう。いいのかい?じゃあありがたく貰っておくよ」
ほとんどの荷物はあの野営地に置いてきてしまったが、死霊術師は気前よく指輪を手放した。財産は失っても、己の才覚と身に着けた技さえあればいくらでも取り戻せる、というのが死霊術師の―――というか魔法使い一般の感覚である。彼らにとって最大の財産は身に着けた魔法そのものであるから。それに、命に代わる財などあるはずもない。
とはいえそれらを失う原因となった敵に対する怒りが収まるわけでは無論ない。特に女騎士。状況から考えて、彼女の生存は絶望的だろう。
死霊術師は、拳を握りこんだ。
そんな彼の内心を知ってか知らずか、日焼けした船乗りは、焼けて来た貝を火鉢から下ろすと赤子のために汁を器へ取り分け、そして貝を死霊術師と自分、女の子の前にそれぞれ並べた。渦巻きを巻いた殻を持つゴツゴツとした貝である。
「それで、どうする気かな」
「とりあえず、港町まで行くつもりだ。そこの子を神殿に預ける」
視線が集中したのは、女の子にあやされている赤ん坊。きゃっきゃと笑っていた。あれだけの目に遭っていながらこの様子。将来が楽しみである。
「あんたの子じゃないのかい?」
「ああ。道中拾ってな」
「そうか。可哀想に。
で、その子を預けた後の宛は?見たところ路銀もないようだけど」
「働くつもりだ。ちょいとばかり魔法が使えるんでね」
魔法使いはとりあえず、どこへ行くにしても食うに困ることだけはなかった。港町についても何とかなるだろう。
「ああ、あんた魔法使いか。それならちょうどよかった」
「うん?」
「いやね、最近出るんだよ……魔物が」
◇
「あれ。人だ」
「おお。魔物じゃなかろうな」
その馬車が、大河脇の街道にて二人の人影を発見したのは、太陽がまだ頂点へ差し掛かる前の時間のこと。
むき出しの荷台に乗った男は、傍らの槍を手に取りながら立ち上がり、そして声をかけた。
「おおーい。あんたらこんな場所で何してるんだね!」
呼びかけられた二人組の片方。全身は目も覚めるような赤。とんがり帽子にローブを纏い、豊満な肉体と蠱惑的な唇を持った若い美女は、手にしているねじくれた枝にしか見えない杖を振りながら答えた。
「ちょっと難儀しててね!乗せてってくれないかね!」
その隣。マントの下に身に着けているのは甲冑だろうか?欠けたところなど見当たらない、驚くべき美貌を持った女は、ぺこり、と上半身を折ってお辞儀した。
御者の男は考えた。こんなに陽光が照り付けているというのに魑魅魍魎の類ということはあるまい。格好からして魔法使いだろうか。山賊は近頃港町が大々的に討伐を行ったというから可能性は低い。
彼は結論を出すと、相棒へ伝えた。
「乗せてってやるかね」
「ま、よかろ。それに美人だ」
「違いない」
いつの時代、どんな場所であろうとも美人は得であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます