冷静に考えるとあの戦術前もやってた(別作品での話ね)
一時はどうなる事かと思ったが、どうやら策は上手くいったらしい。暗黒神の思し召しであろう。ここ数日観察していたが、敵の手札の中では、あの
とはいえ、最後の詰めを誤るのは愚か者のする事だ。窮鼠猫を噛むともいう。奴が死に、赤子を手にするまで安心できぬ。
まずは弱ったところから確実に潰すとしよう。刺客どもへ思念を送りつける。
『
◇
目が合った。
女騎士の胴体。彼女の首の断面より上、霊的な視覚でしかとらえられない美貌が告げている。行け、と。
死霊術師という人種は、合理主義者である。
だから、フードの死霊術師は、応えた。
「―――すまん」
赤ん坊を抱え直し、駆けだす。
突破すべきなのは、銀の小剣を構えた刺客たちの方ではない。
見上げるような巨体を晒す、
収束した思念が怪物の魂魄に直撃。
しかし、術の一撃で怪物が前後不覚となっていたのはほんの一瞬。
魂が肉体へと舞い戻った怪物は反転。その大きな歩幅で、木々をなぎ倒しつつフードの魔法使いへの追撃を開始する。
だが、夜はまだ始まったばかりだった。太陽神や火神の神官であれば陽光を召喚して動きを封じられようが、死霊術師にあれを斃す術はない。
だから、死霊術師には逃げるという選択肢しか存在しない。
怪物の巨腕が伸びる。どこかためらいがちなのは赤子を傷つけぬためだろうか。その手首を、骸骨兵が切り落とした。
―――GYUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOO!
苦痛の悲鳴を上げたそいつはしかし、落ちた手首を拾い上げると断面へ当てる。まるで粘土のようにくっつき、負傷は即座に完治した。
変幻自在ということは形がないということである。故に夜の
骸骨兵の一撃で距離を稼いだ死霊術師の前方に、幾人もの刺客が立ちふさがる。奴らの一人が刃を構えて突進してくるのに対し、死霊術師は手の中のものを投げつけた。
―――赤子が入った籠を。
虚を突かれ、思わず籠を抱き留めたそいつ。その足が、まず踏み抜かれた。次いで腹部に体重の乗った掌底の一撃。内臓破裂で即死した刺客からすれ違いざま籠を奪い返し、死霊術師は走る。
今のやり取りで、せっかく開いた
男は、走った。
◇
逃げ去っていく師を見送り、女騎士は立ち上がった。その肉体は満身創痍。
ふらつきながらも、剣を抜き放ち、刺客の一人に切りかかる。外れる。もはや生身の人間にすら追いつけぬ。奴らは女騎士の胴体を無視して首を潰そうとしている。銀で出来た刃なら、彼女を真に殺せるだろう。そうなれば死霊術師ですらもはや修復の余地はない。
―――ああ、魔術を習っていてよかった。
死んでも、今度は以前のような醜態を晒さずに済む。自分で肉体とのつながりを断ち切り、成仏するくらいのことはできよう。死んだらどこに行こうか。今度こそ天に昇り、太陽神の御許に行くのもよいだろう。
刺客どもの後を、のろのろと追いかける。首は爆発の衝撃で手放してしまった。20歩の距離が遠い。もはや自分の首を自分で守る事すらできぬ。
首のない彼女の霊的な視線の先。
酷く傷つき、大地へと転がった頭部。その肉眼の前に、敵が立ちふさがった。目が合う。きらめく刃。抵抗の余地はない。
死を目前にして、脳裏を様々な思い出が駆け抜ける。生きていた頃。楽しかったころ。武術を修め、闇の軍勢と戦い続けることを騎士として誓った。一度目の死。死霊術師との出会い。森の悪霊との戦い。
唐突に、思い出した。あの鎧武者。彼の底知れぬ生命力の根源を。火神の加護ですら焼き切れなかった彼の不死の魔法の秘密を。
ああ。だが、それは駄目だ。その選択は、邪悪への道だ。
しかし、たどり着いた考えは、あまりにも甘美な誘惑だった。
女騎士は、視線を介して魂の手を伸ばす。つかみ取った敵の霊を肉体から引きずり出し、抱き寄せ、そいつの首にむしゃぶりつき、そして啜った。
生命の源を。
―――ああ、暖かい。
活力が流れ込んで来る。肉体が再生する。体に力が満ち溢れる。
代償に、眼前の刺客。そいつが急速に生命力を失い、膝から崩れ落ちる。ガクガクと震え、全身を痙攣させ、滝のような汗を流し、しまいには肉体を硬直させて横倒れとなった。
禁断の力に手を出した女騎士。彼女の眼が爛々と赤く輝き始めた。
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