裸マントの首なし女騎士ってそそるんですが(例によって極めて特殊な性癖)

死者38名。

あれだけの騒ぎでは少なかった方だが、人口400名に満たない村としてはかなりの打撃である。

死体の数と、そして犠牲者はきちんと確認している。屍人ワイトを1体でも逃せば後で大変な事になるのが分かっていたから。

最初の犠牲者である男の子の遺体は、森の奥で発見された。

神殿の応接室。

事の経緯を聞き終えた神官は、眼前に座るローブの死霊術師に感謝の言葉を告げた。

「亡き長と、村人一同に代わって感謝いたします。本当に助かりました」

「顔を上げてくれ。困ったときはお互い様ってな」

実際の所、この魔法使いがいなければ、おそらく村は全滅していたはずだ。感謝してもし足りない。

にも礼を」

「伝えておく」

村人たちは女騎士へ刃を向けたが、神官は「邪悪な死にぞこないアンデッドが太陽神の印など切るか!」と押しとどめた。それでも気味悪がるのは止められなかったが、女騎士が自ら村の外へ退去したことで事なきを得ている。ついでに、死霊術師の骸骨兵も。

「これは感謝の気持ちです。なにぶん貧しい村ですのでこんなものしか用意できず、心苦しいのですが」

「ありがたくいただいておくとするよ」

神官が差し出したのは、布に包まれた指輪。宝石がはめられたそれは、ささやかなながら幸運の魔力がこもっている。

中身を検分し、そして懐に収めた死霊術師は立ち上がった。

見送るべく、神官も立ち上がる。

「道中の無事を祈っております」

「そっちこそこれから大変だろうが、頑張ってくれ」

両者は握手を交わし、そして魔法使いは神殿より去った。


  ◇


沈みゆく夕日が照らす森の中。

傍らに生首と剣―――鎧武者がもっていたあの魔法の剣―――を置き、素肌にマントを身に着けた女騎士の肉体に負傷はもう残っていない。土の下で眠ればすぐさま傷が癒えるのは、死者の体のありがたい利点だった。

した彼女の手の中には裁縫道具。裂けた衣を縫い、布を当てていたのである。あれだけの戦闘にしては被害が少なかった方だ。数か所の損傷を除けばほとんどが鉤裂き程度。女騎士や屍人ワイトの体には血が通っていないから、血もついていない。

いかにして跡を目立たなくしつつ修復するかに頭を悩ませる彼女の元へ、死霊術師が戻って来た。

「……ぁ……」

「ただいま。早いな」

言葉を返す代わりに、生首がほほ笑む。彼女は裁縫道具と衣を側へ置くと、死霊術師へ向き直った。

「うん?なんだ、あらたまって」

「……ぅ……ぉ……」

表情を引き締めた生首。女騎士が抱え上げたそれの唇が、ゆっくり動いた。

「そうか。決心したか」

「ぁ……」

告げた内容は、女騎士が先日からずっと考えていたことだった。

永劫に続く意識。生の喜びとは無縁の体。人前に出られぬ化け物の姿。

そんな彼女にとって、以前死霊術師が語った神仙リシの話は、救いとも思えたのだ。

肉体を脱ぎ捨て、より高い次元に移り住み、永遠の住人になるという。

最後のひと押しとなったのは、あの鎧武者。

「修業は長い。俺も百三十年ばかり続けてるが、まだまだ不足を感じることはたっぷりある」

「……!」

「驚いたか?じゃ、ひとつ学んだな。

―――あらためてよろしくな、死霊術師ネクロマンサーの卵さん」

「……ぉ」

こうして、一人の死者が、死霊術師の道を歩み始めた。


  ◇


少年は、祭壇の方を向いている神官に対して緊張の極みにあった。森の悪霊―――あの鎧武者を解き放ってしまったのは少年とその友人であったから。

多くの人が死んだ。少年の父も含めて。

全てを正直に語った少年は、いかなる罰も受ける覚悟だった。

「―――そうか」

振り返った神官の顔は、険しいもの。

彼も、父である長を失っていたはずだった。

「危険を伝えるために走り、そして助けを呼んだのだな?」

「……はい」

「今回の事は、私の胸に収めておく」

「……え?」

「この話を皆が知れば、村にはおられまい。お前だけではない。家族もだ。だから決して口外するな」

「で、でも」

「罪は罪。だが、自ら償おうとしたのだ。罪とは不滅のものだが、焼き清めることはできる」

「……」

それは、火神の教えだった。

苛烈なまでの清浄さを司る火神は、時に過酷な試練を罪人に課す。されど、それは贖罪の機会を与える火神の慈悲でもあった。

「今後、神殿に奉仕することを命じる。

お前は残った家族を養っていかねばならん。生きるということはそれ自体が戦いだ。

だが忘れるな。神は見ておられる」

「……はい!」

室内を照らしていた太陽が、再び沈んでいく。

だが。明日になれば。

朝日はまた、昇るのだ。

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