回転寿司のプリンが転生して寿司になるまで

回転寿司のプリンが転生して寿司になるまで

 プリンに醤油をかければウニになる。一体誰の格言だったか。

 俺は初めから、社会という回転寿司のレーンを流れる、場違いなプリンだったんだろう。いずれウニになれるなんて信じていたのは、ずっと昔のこと。現実を理解してからは、ただ無意味にレーンの上を流れ、廃棄を待つだけの長い時間が続いていた。

 寿司ネタ輸送の冷凍車に撥ねられたときも、胸中にあったのはほとんど安堵に近い諦めだけ。

 そして。


 漂ってくる金属の臭いが俺を現実に引き戻す。不注意な冒険者が知覚圏内に入ったか。この異世界に転生した俺が与えられた役割は、勇者でも冒険者でもなく、それらを狩る怪物モンスターだった。これ以上ない僥倖だ。


 巨体をねじり、強靭な尾を振り、弾丸の速度で突き進む。人の身では想像すらできなかった力! すぐに、ばしゃばしゃと水面を叩く人影を捕捉する。足を滑らせて溺れたか? 愚者め!

 俺は勢いに任せてそいつに頭突きを仕掛け……、しかし、ガリ一重で躱される。


 演技フェイク!?


 ぱっと血煙が上がる。泳ぎのバランスが崩れる。切り飛ばされ海中に沈んでいく己の右胸鰭が見えた。

 身をよじり冒険者に向き直ると、相手もこちらに水霊の剣を構え直したところだった。その剣と物怖じせぬ眼光に、俺は見覚えがあった。


「兄の仇だ、怪魚マグロォ!」


 水霊の加護の下、そいつは吼える。剣はかつて俺が殺した冒険者のもの。眼光も彼の者に似て、しかしそれより力強い。

 ああ。あの時怯えていた子供か。人間というのは、出世魚より化けるものだな。

 俺もあるいは、何かが違っていれば――

 一瞬の悔恨を冒険者の雄叫びが破る。

 俺も心中だけで吠え(魚なので発声器官はない)、突撃する。

 交錯。そして。

 血の花が咲く。腹を綺麗に裂かれ、臓物を撒き散らしたのは俺だった。


「貴様……、今、わざと……?」


 薄れ行く意識の中、勇者の声が聞こえた。

 これでいい。丸々と育った身を綺麗に捌かれた俺は、やっと、寿司になれるんだ。

 ああ――、これ以上ない僥倖だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

回転寿司のプリンが転生して寿司になるまで @yakiniku_tabetai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ