549神猫 ミーちゃん、試食会開きます。
まったくあずかり知らないわけではないけど、俺の株が上がるってなによ?
「ブロッケン辺境伯は私財を投げ売って、闇ギルドの討伐をしたってことになってるぜ」
「己の身が危険に晒されることを顧みず、民衆を苦しめる貴族を懲らしめたってことにもなってますね」
「誰やそれ~」
「み~?」
本当に誰やそれ? 私財なんて投げ売ってないぞ? 全部、闇ギルドのアジトから没収したお金だ。一レトも自分のお金を使っていない。
ちなみにハンターさんの打ち上げにかかったお金はギリ間に合った。本店の神猫屋は大儲けだったそうだ。
「ですが、おかげでそんなブロッケン辺境伯のお店である神猫屋で品を買って、ブロッケン辺境伯の助けになればとういう方々が増え、日々売り上げが上がっています」
「みっ!?」
マッチポンプではないが、変な効果があったようだ。だけど、売り上げが上がるのは万々歳だ。町の人の善意と素直に喜ぼう。
「でも、やっぱり魔界のプリンスだにゃ!」
「にゃ!」
「み、み~」
「……」
何も言えない、何も聞きたくない……。
「「この王都で魔界のプリンスを知らない人はいませ~ん」」
「ぐっ……」
今俺は、目に見えないが血反吐を吐いている。もしかしたら、血の涙も流しているかもしれない。メンタルはズタボロだ……。
「言うことを聞かないと、魔界のプリンスに亡者の海に落とされるって言っているご婦人たちを見ましたわ」
クラウディアさんが俺の心にナイフを突き刺してくる……。
「広場では子どたちが魔界のプリンスごっこをしてましたね」
クリスさん、お前もか……。
「闇ギルド界では魔王認定されたぞ。少年。ついでに、ミストレティシアが是非とも魔界のプリンスをお茶にお誘いしたいと言っていたな。クックックッ」
こ奴、わかって行ってるな。そこに直れ、成敗してくれるわ!
俺、寝る。
「みぃ……」
翌日、朝早くに目が覚めた。寝すぎて体がだるい。外に出て軽くストレッチして牧場の周りをランニング。ルーくんとラルくん、それに白狼三頭が一緒にランニングに加わる。
少しは体力がついたかな? いや、身体強化スキルの効果だけかも?
ランニングの後にはベン爺さんが作ったおもちゃの剣で素振り。振ったところで俺が前衛をするつもりはない。まあ、いつか神猫剣を使いこなしたいとは思っている。
運動したおかげでお腹はペコペコ。朝食をみんなと食べ、粉ひき業者の下に行く。
前回、頼んだとおりの品質になっていたのいで、出来上がった分をもらっていく。残りは神猫商会本店に届けてもらうことにした。
本店にやって来た。
ミーちゃんはお店の前でお客さんの相手をするそうだ。さすが、会頭。
手を洗い服のホコリを落とし、エプロン、三角巾を身に着け店裏の調理場に入る。イルゼさんも一緒だ。
調理場ではフーリアさんが豆腐作りをしていた。最近、売り上げを伸ばしているそうで、忙しいみたいだ。正直、俺よりプロだ。毎日、豆腐作りの記録を取っているらしい。
フーリアさんが邪魔にならない所で、製粉してもらった新粉と餅粉を出す。今日作るのは団子二種類。新粉のみ、新粉と餅粉のブレンドのだんご粉を使ったもの。
沢山作って保温器に入れていく。それを持ってミーちゃんとイルゼさんとハンターギルドに向かう。
「ネロくん。今日は何の用?」
パミルさんは何もしていないのに疑心の目を向けてくる。失礼な、なんですその目は。
「いつもお世話になっているので、労いとちょっとばかし新製品の試食を兼ねた品評調査のご協力を願おうかと」
「み~」
「本当~に~?」
「本当です!」
「み~!」
パミルさん、疑心暗鬼にとらわれているな。そんなに俺が信用ならないのか! テラ、言ってやりなさい! ネロお兄ちゃんは善良で優しくて人に迷惑をかける人じゃないと!
「みゅ、みゅ~」
なにか一瞬詰まった気がするがまあいいでしょう。
酒場のマスターにも許可をいただき、イルゼさんと準備を始める。
小皿に作ってきた二種類のお団子を載せて餡子を添える。
ミーちゃんが餡子から目を離さない。今にも飛び掛かりそうな様子だ。苦笑いのイルゼさんがお皿に餡子を載せて、ミーちゃんの前に置く。
「み~!」
ミーちゃん、イルゼさんにありがとう~! って言ってからペロペロ餡子を舐める。テラはあまり興味がなさそうなのでミーちゃんクッキーとミネラルウォーターを皿に出してあげた。餡子よりよっぽど喜んでいるね。
お皿を持ってギルドのお姉さま方に配り試食してもらう。全員が食べ終えたところで、どちらが好みだったか多数決を採る。
比率でいうと五対三で新粉のみの柔らかいお団子に軍配が上がった。俺的にもちもち感のあるだんご粉のほうが好きなんだけどねぇ。
理由を聞いて回ると柔らかいからだそうだ。単純にこちらの世界のお菓子は硬いものしかないからと理由が多かった。
基本的に長く保存できることを前提に作っているので、どうしても密度が高くなり乾燥して固くなりやすい。
最近は宗方姉弟のおかげで、柔らかいパンが店先に並ぶようになったけど、まだまだ黒い硬いパンが主流だ。柔らかいパンだと食べた気がしないという人が多いらしい。柔らかい分噛む回数が減るから仕方がないといえば仕方がない。
だとしても、俺は柔らかいパンのほうが好きだな。軽く炙ったパンに温め蕩けたチーズを載せて食べる。至福だ。
餡子を載せて食べるのもいいね。
「み~!」
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