548神猫 ミーちゃん、お疲れ~。

「ナッサウ伯よ。なぜ、ロタリンギアと内通した?」


「正当な評価をする国だからだ。下賤な民は高貴なる血により支配されるが理。下賤な者がのさばるは不快」


「そうか、ほかに申し開きはあるか?」


「……」



 なにを言っても無駄と悟ったか口を開かない。



「ナッサウ伯、沙汰を下す。成人以上は男女問わず死罪。ナッサウ伯は取り潰しとする」


「くっ……。愚かな王よ。その無知ゆえに国が滅びる姿を己の目で見るがいい!」



 負け惜しみだな。この男は俺を殺そうとしただけでなく、国を売った売国奴だ。この話ぶりからすると、昔からロタリンギアと繋がっていた感じだ。


 東辺境伯の反乱時には上手く身を躱したようだが、こんな貴族がごろごろといるんだろうな。駆除しても駆除しても湧いてくる。気が滅入るね。


 連れて行かれる姿は弱々しい老人。ここに連れて来られた時とはまるで別人だ。同情はまったくない。選民思想は滅ぶべきだ。


 次々に連れて来られ沙汰を言い渡される。ほとんどの者は無罪を主張し、俺を罵りながら去っていった。だから? って感じだ。


 そういえば、以前レーネ様の誕生会で俺を貴様呼ばわりしたバリモント伯爵も首謀者の一人だった。血判状を見た限りだと、あの誕生会の後に名を連ねたみたいだ。まあ、どうでもいいけどね。


 午前中いっぱいかかり主な貴族の沙汰がなされた。



「クックックッ……笑いが止まらんとはこういうことを言うのだな。多くの馬鹿共を処分できそうだ。よくやった。ネロ。褒めてやる」


「俺には実利がまったくないのですが?」


「だから東辺境伯領をやると言っておろう」


「いりませんよ。あんな土地。ロタリンギアの矢面に立たせる気ですよね? 遠慮しておきます」


「そうか、残念だ。褒美は別のものにするか」



 穀倉地帯は魅力的だけど、もらったが最後、苦労する未来しか想像できない。


 それに、今の領地でも十分な量の麦が手に入る。フォルテでエール、ニクセでワイン、ブロッケン山で蒸留酒造り、この地域のお酒は俺が押さえる。冗談抜きに酒造王に俺はなれる!



「残りの者の裁定は任せる。厳しく詮議し白黒はっきりさせろ。曖昧は許さぬ」



 王様が御退座されると、全員が安堵の表情になりため息をついた。みなさん、もっと王様が荒れると思っていたようだ。逆に機嫌がよくなって驚いているくらいだ。


 謁見場を出ると王妃様付きの侍女さんが俺を待っていて、王妃様の下に連れて行かれる。



「ご苦労様。ネロくん」


「み~」



 ミーちゃん、王妃様にモフられながら、お疲れ~と挨拶。ルカたちはお子ちゃまズの所にいる。



「魔界のプリンス様、御機嫌よう……ププッ」



 珍しくエレナさんがいるが、なぜ笑う? いや、笑う気持ちはわかるけど、そこは大人の対応をしようよ!



「赤竜の姫君におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」



 エレナさんの前で胸に手を当て、ボウ・アンド・スクレープ。魔界のプリンスみたいに優雅にね。



「き、気持ち悪いからやめて……」


「みぃ……」



 失礼だな! 赤竜の姫君はがさつだし、少々、品位に欠けるところがある。まあ、致し方ない。



「それで、どうなったの? ネロくん」



 まだ王妃様の所に情報は降りて来てないようだ。なので、王様の裁定の様子を話して聞かせる。



「ルミエールは貴族粛清まっしぐら……」


「無能な貴族は消えていいのよ。この国もヒルデンブルグと同じように貴族は名誉職のみ。そうなることを目指すの。害悪でしかない貴族なんて誰も望んでいないわ」


「ネロくんもせっかく貴族になったのに大変ね」


「なりたくてなったわけではないので、返せと言われればすぐにでもお返しします」


「ネロくんは冷めてるわねぇ」



 冷めてるもなにも、最初から貴族になんてなりたくなかった。俺の夢はスローライフであって、自分の命をすり減らしてまで苦労することじゃない。



「俺はですね、正直仕方なく貴族たるものの身分にふさわしい振る舞いをしているだけ。要するに身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという基本的道徳観でやっているだけです。仕方なく!」


「ま、まあ、仕方なくだとしても、ネロくんのような常識ある貴族がいてくれれば民も安心すると思うわ」


「魔界のプリンスの二つ名持ちですが?」


「「「「「「ププッ」」」」」」



 おい、そこの侍女軍団、喧嘩売っているのか?


 それより、眠い。二日も完徹している。ミーちゃんのミネラルウォーターを飲んでいるとはいっても、さすがにきつい。



「すみません。さすがに疲れて眠いです。そろそろお暇させてください」


「そ、そうね。ゆっくり休んでちょうだい。そのうち、残りの者たちも連行されて来るでしょうから」


「ミーちゃん、帰るよ」


「み~」



 帰るにしてもグラムさんとスキニーさんはどこにいるんだ?


 侍女さんに案内されたのは王宮で働く人たちの食堂。


 グラムさんは朝食中で、スキニーさんはその横の長椅子で寝ている。ずっとここで寝てたのか?


 俺もここで朝食を食べてからスキニーさんを起こして家路についた。


 帰ってから爆睡。起きたら夜だった……。


 夕食をみんなで食べて話をして町の様子を聞く。やはり貴族の粛清の話題で盛り上がっているらしい。その中で俺の株がうなぎ登りらしい。


 嫌な予感しかしない……。



「み~?」



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