509神猫 ミーちゃん、便利だよね~。

 サイクスさんにランチとデザートにプリンを二人分頼み、ヴィルヘルムのお魚をお裾分け。昆布と鰹節は数が少ないので今回はお預け。



「いつも悪りぃな」


「『グラン・フィル』のご主人にもわけてくださいね。それと王都でもプリンの販売が始まりましたよ。とても盛況です」


「だろうな。うちの店でさえ大盛況だ。二店舗目を出すか店を大きくするか迷っているところだ」



 サイクスさんの奥さんが仕切っているお店だけど、サイクスさんの本業はハンターギルドの酒場のマスター。セリオンギルド長に雇ってもらった恩があるので、こちらを辞める気はないそうだ。


 それにしても二店舗目かぁ。サイクスさんの奥さんのあのウェイトレスさん、なかなかのやり手らしい。あの時はそんな風に見えなかったけど。


 せっかくなので、シュークリームのレシピを渡しておいた。クイントでも広めてほしい。



「ここの飯は旨いな」



 あまり褒めないグラムさんが、サイクスさんの料理を食べて満足している。


 ミーちゃんは猫缶をパルちゃんと一緒に食べている。パルちゃん、ちゃんとお昼を食べたそうなのに、いい食べっぷり。大きくなれよ~。



「ドラゴンでも転移スキル持ちって珍しいですか?」


「そうだな。珍しいスキルだな。だが、確かアレックスは持ってるぞ」


「み~?」



 そうなの? 知らなかった。



「持っていても使うことがないからな。自分で空を飛んだほうが気持ちがいい。アレックスは長に酒を届ける時に使っているらしいが」


「み~」



 そうなんだ。だから、ヴィルヘルムでドラゴンの目撃情報がないんだね。いつも、飛竜隊が巡回してるのにどうやって竜の島に行ってるのかと思ってた。


 よし、決めた。グラムさんを転移スキル持ちということにしよう。王妃様にはグラムさんがドラゴンだと教えている。セリオンギルド長も信頼に値する方だ、教えても問題ないだろう。



「人族とは不便だな。まあ、別に構わないぞ」


「み~」



 これで、問題解決。もし、このことがバレても相手はドラゴン、強制はできない。もし、そんな馬鹿がいれば実力行使でいいだろう。




「なぜ、こんな場所に来た?」


「ほかの人に見られたくないからです」



 セリオンギルド長と俺たちは流れ迷宮の狐獣人の村に来ている。グラムさんの転移スキルの偽装工作だ。転移装置を使っているので、本来の転移スキルとは違い転移できる場所が限定されているからだ。



「これからのことは他言無用でお願いします。では行きます」


「み~」



 一瞬で目の前の景色が変わり、うちの納屋に到着。



「やはり、転移スキルを持っていたか」


「俺じゃなく、こっちのグラムさんですけどね」



 セリオンギルド長、薄々感づいていたようだ。当たらずも遠からずだ。危ない危ない。



「ちなみに、グラムさんはドラゴンですので、手を出せばどうなっても知りませんからね」


「み~」


「!?」



 忠告はした。まあ、セリオンギルド長だから問題ないと思うけど。



「これは転移門ではないのか?」



 納屋には本店と繋げた転移門があるから、見知っているセリオンギルド長が気づいてもおかしくない。



「前に使った転移門の余りです。使わないともったいないので使ってます」


「み~」


「……」


 取りあえず、うちでお茶を一杯。



「げっ、セリオンギルド長……なぜ、ここに?」


「なんだ、ルーか。お前こそ、なんでここにいる?」



 今日は依頼に出ないで休日にしていたルーさん、部屋から降りてきてセリオンギルド長とばったり。



「ユーリの伝手で、ネロの所で世話になってるんっす」



 ルーさん、自分より上の人の前だとしゃべり方が変わるよねぇ。いつもはみんなのいい兄貴分なのに、今はもの凄く小物くさい。



「ほう。ユーリはハンターギルドを辞めたと聞いたが、そのユーリはどうした?」


「ユーリはネロの奥さんになったっす」


「み~」


「まだ、婚約状態ですけどね。ユーリさん、今は国に帰ってます」


「あのユーリが辺境伯夫人とはな」



 感慨深そうな顔をしているセリオンギルド長にはうちに泊まってもらう。ハンターギルド本部のせいだが、俺のことでもあるからね。


 どうせギルド指定の蛸部屋宿には泊まらないだろう。王都の高い宿に泊まるくらいならうちに泊まればいいと考えた。



「いいのか?」


「構いませんよ」



 最初は警戒していたクオンとセイランだけど、ルーくんとラルくんがセリオンギルド長に突撃するとすぐに突撃を開始。


 セリオンギルド長にルーくんたちは白狼族ですよと教えると驚いていた。ラルくんは違うんだけど、ドラゴンと教えると面倒そうになりそうなので黙っている。


 部屋の用意もでき荷物も部屋に置いてきたセリオンギルド長とハンターギルドに向かう。



「贅沢な使い方だな……」



 転移門を抜け神猫商会の本店に着き、外に出たセリオンギルド長は目の前のハンターギルドを見て遠い目をしている。



「便利でしょう?」


「……」


「み~」


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