498神猫 ミーちゃん、豚汁より餡子がいいです。
「辺境伯って美味しいにゃ?」
「にゃ?」
美味しくないね。
「にゃらいらにゃいにゃ」
「にゃ」
君たちの判断は正しい。俺もいらない。
「あのネロが辺境伯……マジかぁ」
「そうか、私も辺境伯婦人か。少年」
「み~」
そう、第二夫人ね。
「お屋敷はこのままでいいのでしょうか?」
「元が王族の別荘だから問題ないでしょう。しかし、門番と警備の兵は必要になるでしょう」
カティアさんの質問にルーカスさんが答えるが、
「門番も警備の兵も必要ないですよ? うちくらい警護が厳しい場所は王都中を探してもないと思いますから。ねぇ、レティさん」
「そうだな。少年の言うとおりだ。この屋敷に限らず敷地すべてを白狼たちが監視している。気配察知能力の高い白狼たちの監視網を、知られずに抜けるのはまず無理だ。そんなことができるのは空から舞い降りれるドラゴンくらいなものだ」
そのドラゴンもうちには三人いるしね。あと本店に一人と支店に三人。
「もう少しすると妖精族と一緒に、うちの警護増強と商隊の護衛の白狼も来るので、さらに警護が高まるので必要ないでしょう」
「ですが、貴族としての最低限の体裁は必要です」
「意味のない体裁ななんてゴブリンにでも喰わせちまえ! です」
「み~!」
「うちは新興貴族です。ほかの貴族とは違う新興貴族の道を行きます。それを笑うというなら、笑わせておけばいい。どちらが正しき道か思い知ることでしょう」
「はぁ……」
今まで貴族に仕えていたルーカスさんから見れば。俺の行いは破天荒極まりないだろうけど、それは今更のこと。
既に一蓮托生。乗りかけた船には、ためらわずに乗ってしまえだ!
「み~!」
まずは、民衆のご機嫌取り。明日から辺境伯就任記念として、神猫屋で半額セールを行なおう。ついでに
そうと決まれば豚汁を仕込もう。
ん? 俺って辺境伯だよね? 俺が作るのか? というより俺しか作れないな。仕方がないやろう……。
うちの料理長、というか一人しかいない料理担当のエフさんと手分けして寸胴鍋四つ分の豚汁の仕込みを始める。
野菜切りはエフさんに任せ、俺は出汁作り。出汁はなくていいという人もいるけど、やっぱり深みを出すには出汁があったほうがいい。鰹節も昆布もないので魚の骨から出汁をとる。
エフさんの野菜切りが終れば、オーク肉を大量に油で炒める。これだけで凄い食欲をそそる匂いが出てくる。
現によだれを垂らした腹ペコ魔人たちが、オーク肉を虎視眈々と狙っている。仕方ない……ちょっとだけ塩胡椒をしてパンに挟んで腹ペコ魔人たちに配る。
あ、あれ、ふ、増えてる!?
「ネロ、ありがとにゃ!」
「にゃ!」
「がう!」
「きゅ~!」
「「かう!」」
クオンとセイランも腹ペコ魔人予備軍決定か……。
エフさんに切った野菜も炒めてもらっている間に、小麦を捏ねる。うどん作りだ。うどんは何度か作っているので慣れたもの。
明日、このうどんは有料で追加できるようにする。一度軽く茹でておき、注文を受けてからもう一度茹でる方式にすれば、時間の短縮になりお客様を待たせず済む。間違いなく売れる!
宮城のばあちゃんちで食べた芋煮の締めはうどんだった。山形の芋煮の締めはカレーらしい……。ちなみにばあちゃんのちの芋煮は醤油ベース。場所によって味噌と醤油や豚肉、牛肉と違うバリエーションがある。
今回はオーソドックスな豚汁でいくので味噌ベース。それでもうどんは合う。ひっつみ、ほうとう、すいとん地方により味や形は違えど、似ているものが多くある。
うどんは作り方は簡単だから広めたい。パスタがあるのだからうどんも庶民の味として広がると思う。問題は出汁だな。ヒルデンブルグに行って探さないとな。
材料が炒め終わったので水を入れ火にかける。灰汁取りをしっかりして味噌を入れれば完成。
夕食にみんなに出して評価を聞けば、
「す、凄い深みのあるスープにゃ……こんにゃスープがまだこの世にあったんだにゃ。ペロ、不覚にゃ……」
「にゃ!」
「がう!」
「きゅ~!」
「「かう!」」
問題ないね。
「このうどんも濃厚なスープに合いますね」
「これは売れますわ!」
「これだけで、店開けるんじゃね?」
「姉さん。豚汁だよ……」
「おふくろの味だよぅ……」
確かにルーさんの言うとおりなんだけど、出汁がねぇ。それが解決したら、屋台でも開いてみようと思っている。
それから宗方姉弟、俺は君たちのおふくろさんじゃないからな!
そういえば、ミーちゃんは豚汁に見向きもしない。濃いものや脂っぽいのは好きじゃないから仕方がないか。あんなに濃い味の餡子は好きなのにね。
あっ、餡子で思い出した!
ミーちゃん、レーネ様のお誕生会で餡子たらふく食べてたよね?
「み、み~♪」
誤魔化しても駄目。ちゃんと見ていたんだからね! 今日の夜のデザートはお預けね。
「みっ!? みぃ……」
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